乗車中の電車が大幅に遅延して大切な商談に間に合わない!結果、大遅刻となった商談は白紙になってしまいましたとさ……。
このようなケースは日本のどこかで、日々起こっているかもしれません。しかし、日本の鉄道会社は電車遅延が極めて少なく、海外の方からするととても優秀であると称賛されている面もあります。
とはいうものの、一定割合で必ず発生してしまっている電車の遅延によって、予定に遅刻することもあるでしょう。その様な時、鉄道会社に何かしらの請求をしたいと考えたことのある人もいるかもしれません。
そこで、大事な商談が電車遅延のせいで白紙になってしまった場合、その商談によって得られたであろう利益を鉄道会社に請求できないものか、考えてみたいと思います。
●実は結んでいる鉄道会社との契約
私たちが電車に乗る際、特別意識はしていないとは思いますが、法律的にいえば、旅客運送契約という契約を鉄道会社との間で結んでいます。
この契約は、簡単に言えば、乗り始めた駅から目的地の駅までお客さんを運ぶことを内容とする契約です。この契約内容からすれば、「時間通りに」目的地まで運んでくれることの契約のように受け取る人もおられると思います。
しかしながら、実際には、運送約款において、鉄道会社は電車の遅延による損害を負わない旨の規定が置かれていることがほとんどです。
つまり、契約上の義務は、目的地までお客さんを運ぶというところにとどまり、実際に時間についてまでは義務を負わないことになります。
現実的に見ても、電車の遅延による損害の賠償を認めてしまうと、鉄道会社は、数えきれないほどのお客さんから損害賠償請求を受けることとなってしまい、運賃を値上げして損害賠償に備えるという運用を迫れられることとなり、低価格で便利な電車というのが実現しなくなってしまうこととなります。
●実際に遅延を理由に裁判で争った例がある
実際にも、遅延を理由に損害賠償を請求した事件について、裁判所は、「鉄道事業者は不特定多数の旅客を有料で輸送するものであり,鉄道事業者が列車の遅延について通常の債務不履行責任を負うものとすれば,損害賠償額は膨大な額となり得ることが予想され,大量の旅客を低価で運送することが事業上困難となるのであり,列車の遅延について上記のような免責規定を設けることには相応の合理性を認めることができる。」(東京地裁 平18・9・29)として、鉄道会社の約款による制限を認めています。
そもそも、仮に約款によって遅延による損害賠償が制限されていなかったとしても、電車の遅延がなく商談できていたら100%成立していたということを立証しなければ損害賠償請求は認められません。ですので、商談がパーになった損害を鉄道会社に請求するというのは事実上不可能だと思われます。
遅延はいわば電車利用につきものですので、電車は遅延するものである、ということを念頭に入れ、割り切って行動することも必要なことだと思います。
*著者:弁護士 山口政貴(神楽坂中央法律事務所。サラリーマン経験後、弁護士に。借金問題や消費者被害等、社会的弱者や消費者側の事件のエキスパート。)