近年、SNS利用者の投稿が炎上した場合、投稿者本人のみならず、投稿者の投稿履歴やプロフィールから判明した勤務先・内定先企業のホームページやアカウントも炎上する例をよく目にします。
では、SNS上で企業秘密、顧客情報の漏えいなどの問題投稿を「内定者」が行ったとき、その責任は会社も負わなければならないのでしょうか。
以下では、新卒採用の場合を念頭に置き、内定者と会社とはどのような法律関係にあるのかというところから解説していきたいと思います。
●内定者と会社との法律関係
内定者と会社との法律関係は、判例上次のように固まっています。
まず、会社の採用募集に対する学生の応募や採用試験の受験が労働契約の申込みとなり、会社からの内定通知が契約の承諾に該当するため、内定通知により労働契約が成立することになります。
ただし、この契約は、入社日を就労または効力発生の始期付であり、かつ、内定取消事由が生じた場合は解約できる権利が会社に留保されたものになります。
●内定者の投稿に対して会社は責任を負うのか
会社が法的責任を負う可能性があるものとしては、投稿によって被害を受けた人からの損害賠償請求が考えられます。
しかし、内定通知により労働契約が成立しているのは上記のとおりですが、一般的に会社は従業員等の私的なSNS上の投稿について管理、監督すべき義務を負わないといえますから、たとえ内定者がインターンシップやアルバイトを行っていたとしても、会社は損害賠償義務を負わないのが通常です。
●会社が内定者に対して採り得る措置
SNS上で企業秘密、顧客情報の漏えいなどの問題投稿を内定者が行った場合には、会社は、内定取消しや損害賠償請求ができる可能性があります。
内定取消しについては、判例上、「解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるもの」でなければならないとされていますが、投稿内容が企業秘密や顧客、来店者情報の漏えい等の会社の信用を傷つけるものであれば内定取消事由に当たるといえるでしょう。
以上のように、会社は内定者の問題投稿によって法的責任を負わないのが通常ですが、実際問題としては抗議の電話対応に時間を取られたり、企業名の検索結果やサジェスト機能で悪いイメージがついたりするということがあり得ます。
そのため、企業側としては、内定者に対して、学業の妨げにならない程度のネットリテラシー研修を行うことが望ましいともいえます。
逆に、内定者は、自分の投稿が内定取消しや損害賠償の対象になるリスクがあることを念頭に置くようにしましょう。
*著者:弁護士 木川雅博 (星野法律事務所。通信会社法務・安全衛生部門勤務を経て、星野法律事務所に所属。破産・再生・債務整理を得意とする。趣味は料理、ランニング。)