■「マイナンバー制度」とは
たった1つの番号だけで、自分の納税の状況、収入、年金、あるいはそれ以上の情報がすべてわかるとしたら、どう考えますか?
いわゆる「マイナンバー制度」は誰にとっても他人事ではありません。さらに、その制度の運用開始もいよいよ迫ってきています。
2013年5月24日、いわゆるマイナンバー法(「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」)案が参議院本会議で可決され、成立しました。
物議をかもしたマイナンバー制度が、いよいよ現実に実施されることになりました。
マイナンバー制度は、住民票を有するすべての人に1人1つの番号を付して、社会保障、税、災害対策の分野で効率的に情報を管理し、複数の機関に存在する個人の情報が同一人の情報であることを確認するために活用される制度です。
言い換えれば、これらの機関に存在する個人の情報を1つの番号で把握できるようにしようとする制度であるともいうことができるでしょう。
制度趣旨は、行政を効率化し、国民の利便性を高め、公平・公正な社会を実現する社会基盤をつくることと説明されています。
■制度のメリット・デメリット
マイナンバー制度の導入により、1人1人のより正確な所得把握が可能となり、社会保障や税の給付と負担の公平化が図られることや、大災害時に積極的な支援に活用できること、各種行政事務の効率化が図られることがメリットとしてあげられています。
しかし、個人に関する大量の個人情報をたった1つの番号で管理することに潜む危険性はないのでしょうか。
マイナンバーは、行政機関だけでなく、勤務先の企業にも提供する必要があります。それにとどまらず、証券会社や保険会社等の金融機関でも税務処理を行っているため、マイナンバーを提供する必要があります。さらに、政府は、3年後の見直しの際には、特に民間分野における利用拡大をも目指していることにも注意が必要です。
マイナンバー法が成立したとき、日本弁護士連合会は、法案成立に反対する声明を公表し、その中で、マイナンバー制度により自己情報コントロール権が形骸化すること、諸外国で深刻な社会問題になっている大量の情報漏洩や、なりすましなどのプライバシー侵害につながるおそれを指摘しました。
なお、マイナンバー制度の実施にあたり、特定個人情報保護委員会が設置され、マイナンバー制度の監視等を行うこととなっています。
■平成27年10月にあなたにもマイナンバーが通知される
平成27年10月から、国民1人1人に自分のマイナンバーが通知されます。
そして、平成28年1月からは、いよいよ、雇用保険の給付や確定申告等、社会保障・税・災害対策の行政手続にマイナンバーが必要になります。
また、すべての企業は、税や社会保障の手続でマイナンバー制度に対応することが義務付けられます。したがって、企業は、すべての従業員とその家族のマイナンバーを収集・管理しなければならない上、規則に違反があった場合、罰則の対象となる可能性があります。
しかし、マイナンバー制度に対応するための企業側の準備は十分とはいえません。制度運用開始の直前には混乱が予想されます。
制度運用開始まで1年をきった現在も、賛否両論のある制度であるだけでなく、世間の認知度も十分であるとはいえません。制度運用開始直前の混乱を少しでも避けるためにも、国民1人1人が主体的にこの制度について考えてみる姿勢が必要とされています。
*著者:弁護士 鈴木翔太(弁護士法人 鈴木総合法律事務所)