歌手の沢田研二さんが、コンサート中にイスラム国の人質事件について言及していると、お客さんから「歌をうたって!」という声が飛んだことに対して、お客さんに対して「黙っとれ」とか「嫌なら帰れ」と発言したと報じられています。
歌を聞きに行ったお客さんからしたら、人質事件についての話には興味が無いということも十分考えられますし、なにより高いお金を払って歌を聞きにいっているのに、歌が聞けないのは不満だと思う人も多いかもしれません。
では、このような沢田さんの発言や行動は、法的に何か問題があるのでしょうか。検証してみます。
●コンサートはどんな「契約」をしている?
まず、沢田さんとお客さんとの間では、沢田さんがお客さんに対して歌の披露等のサービスを提供し、それに対してお客さんが沢田さんに対してサービス料金を支払う、という内容の契約が成立しています。
すなわち、沢田さんとしては、歌手として、コンサートの上演時間内に、お客さんに対して歌の披露等をする義務を負っているということです。
沢田さんとしては、歌の披露等をせずに、歌とは関係のない人質事件について言及したことは、歌の披露等をする義務に違反しているのかどうかが問題となります。
●コンサートで何をどうするかは歌手の自由
この点、歌手のコンサートにおいては、どの歌を披露するのか、歌う順番をどうするのか、歌以外のトークの時間をどの程度設けるか、トークの内容をどうするのかは、基本的に歌手の自由な裁量にゆだねられています。
もっとも、お客さんは、歌を聞きにコンサートに来ていますので、歌以外のトークに時間を割きすぎて、歌の時間があまりなかったということであれば、歌手は、歌の披露をする義務に違反することになると考えます。
沢田さんの場合、仮にコンサートの上演時間の大半を人質事件について言及していたとすれば、お客さんに対して歌の披露をする義務に違反する可能性がありますが、人質事件についての言及は、コンサートの終盤数分程度だけだったとすれば、歌手の自由裁量の範囲内ですので、義務に違反することはなく、よって、法的には何ら問題はありません。
●発言自体に問題は?
なお、沢田さんが、お客さんに対して「黙っとれ」、「嫌なら帰れ!」などと発言したことについては、その後、そのお客さんが強制的に退場させられたなどの事情がない限り、単にそのような発言をしたということだけでは、沢田さんが何らかの法律上の責任を負うことはないと考えます。
*著者:弁護士 理崎智英(高島総合法律事務所。離婚、男女問題、遺産相続、借金問題(破産、民事再生等)を多数取り扱っている。)