九州は有明海の諫早湾では、古くから干拓が行われていました。
その中で、湾を有明海から切り取るように潮受け堤防が作られ、内側が淡水化されました。しかし、その結果として、漁業被害が出ているとして、堤防の水門の開放が求められ、争いは裁判所に持ち込まれています。
裁判所の判断は、国営事業として潮受け堤防を設けた国としてどのような対応をしても裁判所の判断に反してしまうという状況にあり、問題になっています。
今回、平成27年1月に出された最高裁判所の判断も、結果的に両立できない内容を国に求める結果となってしまいました。
●裁判所の判断は「開門しろ」と「開門するな」
今回問題になっているケースも、開門を求める主に漁業関係者側と、開門しないことを求める主に干拓地関係者側が、それぞれ裁判所に対して判断を求めました。
まず、開門を求める者らが佐賀地方裁判所に訴えを提起し、その請求を認める判決が、平成22年に福岡高等裁判所で出され、確定しました。要は、「開門をしろ」との確定判決が出されました。
ところが、開門しないことを求める者らが長崎地方裁判所に仮処分を求め、平成25年に、それらの申し立てに沿った仮処分決定が出されました。「開門するな」との仮処分が出たのです。
●国に対して追い打ちをかけた「間接強制」
国としては、あちらを立てればこちらが立たずという状態になってしまったのです。さらに追い打ちをかけたのが、それぞれの当事者が求めた、間接強制の申し立てです。
間接強制とは、裁判所の判断によった履行がない間、金員の支払い義務を発生させ、裁判所の判断の実現させようとするものです。
「開門するな」との仮処分を得た側は、平成26年6月、長崎地方裁判所で間接強制の決定を得ました。
一方、「開門しろ」との確定判決を得た側も、平成26年6月、佐賀地方裁判所で間接強制の決定を得ました。
これらの事件は、それぞれ福岡高等裁判所の判断を経て、今回、平成27年1月、それぞれ同日に最高裁判所の判断が出されました。
結果としては、上記の地方裁判所の判断が維持されており、国としては、間接強制に関しても、あちらを立てればこちらが立たずの状態になってしまいました。
●異なる判断がでることはやむを得ないが
今回の両最高裁決定が述べるように、国が相反する実体法上の義務を負い、それぞれの義務について強制執行(間接強制)の申立てがされるという事態は民事訴訟の構造等から制度上あり得ることです。
しかし、実質的には同一の社会的事実に対する判断が、このように異なる結論となることの弊害は存在します。
相反する義務を負うことを避けるために取り得た一つの方法は、異なる裁判であっても、同一の主張及び立証を揃えておくというものです。同一の主張及び立証が存在すれば、異なる裁判所による判断であっても、同一の結論に至る可能性が高くなります。
上記平成25年の長崎地方裁判所の仮処分決定の中でも、国が、上記平成22年福岡高等裁判所の判断の基礎となった開門を求める側の事情について主張をしなかったことが結論を分けた事情であるとしています。
国が同方向の裁判を得ることを重視しなかった理由はいろいろとあったのでしょうが、現状の不条理な状態を解決する容易な手段はないように思います。
*著者:弁護士 荻原邦夫(りのは綜合法律事務所。刑事事件を主に取り扱っています。お客様に落ち着いていただき、理解していただけるよう対応します。)