●試用期間の意味と満了時の問題
ほとんどの企業では、労働契約において「試用期間」が設けられていると思います。
試用期間については一般的に3ヶ月間と定めている企業が多く、長いところで6ヶ月間ですね。それより長いこともあり得ますが、あまりに長期の試用期間を定めた場合には、後述する通り、試用期間中の解雇といえども普通解雇と同じ基準で解雇の効力について判断されることになると思います。
企業が人を採用する場合には当然面接を経るわけですが、面接だけでその労働者の能力や人柄、勤務態度を把握することは困難であることから、これらの事項を確認する趣旨で試用期間が設けられます。
そして、この試用期間に関連してよく労働トラブルに発展するパターンは、試用期間満了とともに労働契約を終了させられる場合(本採用拒否の場合)ですね。
●試用期間であれば自由に解雇できる、というわけではない
試用期間については三菱樹脂事件の判例(三菱樹脂事件–Wikipedia)が有名です。
同判例は、試用期間について、「試用契約の性質をどう判断するかについては、就業規則の規定の文言のみならず、当該企業内において試用契約の下に雇傭された者に対する処遇の実績、とくに本採用との関係における取扱についての事実上の慣行のいかんをも重視すべきものである」と判示しています。
上記判例によれば、試用期間の法的性質をどう見るかは企業ごとに異なるということになりますが、試用期間は解約権留保付きの労働契約と判断される企業が多いのが実情です(上記判例の事案でもそのように判断されました)。
ここでの「解約権」に基づく解雇(本採用拒否)は、普通解雇(試用期間経過後の解雇)に比べて、ハードルが低い(解雇が有効となりやすい)わけですが、そうは言っても自由に解雇できるわけではなく、留保された解約権の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と是認される場合でなければ解雇は無効となることに注意が必要です(世間では、「試用期間中であれば自由に解雇できる」という考え方がまだまだ多いんです)。
試用期間中の解雇案件では「能力が低い」という解雇理由が多いんですけども、そのような抽象的な理由を労働者に伝えただけでは、労働者も納得できないわけでして、具体的にどういう事情・事実から能力が低いと判断されたのか、どのような事情から今後も向上の見込みがないと判断されたのかという点を明確にしないと、労働トラブルに発展する確率が高いです。
試用期間中であれ試用期間経過後であれ、解雇は労働者の生活の糧を奪うことになるわけですから、解雇するにはそれなりの理由が必要であることを企業側は認識しないといけないでしょう。
●最近増えてきた「契約社員」手法
試用期間に関係して、最近では、試用期間中は労働者を契約社員という位置づけにする(試用期間という文言を使わず、期間の定めのある労働契約を労働者と締結する)企業も増えています。このように定めれば、解雇権濫用法理(労働契約法16条)の適用がなく、試用期間満了によって簡単に雇い止めできると考えているからかもしれません。
しかし、この点については、神戸弘陵学園事件の判例(神戸弘陵学園高等学校–Wikipedia)が「使用者が労働者を新規に採用するに当たり、その雇用契約に期間を設けた場合において、その設けた趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものであるときは、右期間の満了により右雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなどの特段の事情が認めれる場合を除き、右期間は契約の存続期間ではなく、試用期間であると解するのが相当である。」と判示しており、結局、解雇権濫用法理の適用を免れることはできません。
この判例の「特段の事情が認められる場合を除き」という文言に鑑みると、上記の場合は原則として試用期間と解されると理解しておくべきです。
●試用期間を長くしたら
また、試用期間を3ヶ月や6ヶ月ではなく、1年間、2年間と定めた場合にはどうかという質問もよく受けますが、試用期間はあくまで労働者の適性を判断するための期間ですから、適性を判断するにあたって十分な期間を超えて無駄に長く試用期間を定めた場合には、適性判断に必要な期間を超えた部分については、普通解雇と同様に解雇の効力が判断されることになると思いますね。
要するに、試用期間を長く定めても、その期間中はずっと解雇しやすいということにはならないということです。
*著者:弁護士 川浪芳聖(琥珀法律事務所。些細なことでも気兼ねなく相談できる法律事務所、相談しやすい弁護士を目指しています。)
ブログ弁護士川浪芳聖の「虎穴に入らず虎子を得る。」より許可を得て転載しています。