遅刻は社会人としてあるまじき行為とは言うものの、時には起きられずに寝坊してしまうなんてことも……。
体調不良や交通機関の乱れなどならまだしも、寝坊となると、理由としてはあまりよろしくないでしょう。
もし、会社が寝坊などの要因による遅刻に対して「罰金」というルールを設けていた場合、法律上問題はあるのでしょうか?
会社員が寝坊をして出社時間に遅れたということであれば、遅れた分については仕事をしなかったわけですから、この分の給料が支払われないということはあります。
いわゆるノーワークノーペイの原則です。
働いていないのですから、その分の給料を払う必要がないというのは当然といえば当然のことなので、ご理解いただけると思います。
●「遅刻で罰金」は違法なのか
ここからさらに踏み込んで寝坊による遅刻を原因として罰金を課すことができるか、すなわち、減給処分を課すことができるか、といったらいかがでしょうか。
働いた分まで賃金が減らされるのだから労働基準法に違反するのではないかと思われるかもしれません。
この点に関しては、就業規則に減給処分に関する規定がなければ罰金として減給処分を課すことはできませんが、減給処分に関する規定がある場合には罰金として減給処分を課すことができます。
但し、この場合であっても、処分に際しては正当事由が必要ですし、無制限に罰金を課すことができるかといえば、無制限に課すことができるわけではなく、そこには一定の制約があります。
この制約については、労働基準法が次のように定めています(労働基準法第91条)。すなわち、
・一回の額が平均賃金の一日分の半額を超えてはならない。
・総額が一賃金支払い期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない。
この規定から、例えば一時間遅刻して半日無給になるような処分を課すことはできます。
また、1ヵ月の賃金が30万円の人なら月の総額で3万円までなら減給することができます。
●駅員の寝坊は罪に問える?
次に、電車に乗ろうとして駅に行ったところ、駅員が寝坊して、始発に乗れなかったという件について、始発に乗れなかったことで飛行機に乗り遅れ、商談がパーになった場合、始発に乗れれば、飛行機に乗り遅れることなく商談には間に合ったのだから、始発に乗れなかったことについて損害賠償請求したいと思われるかもしれません。
しかし、この場合、始発に乗れなかったことと商談がパーになったこととの間には相当因果関係がないので、損害賠償請求することはできません。
始発が動いていなかったらタクシーに乗れば良いだけですし、そもそも始発の電車に乗らなければならないなら、前日に空港近くのホテルをとれば良かっただけですからね。
大事な商談がある場合には、やはり余裕をもって行動することが大切です。
*著者:弁護士 桐生貴央(広尾総合法律事務所。「人のために 正しく 仲良く 元気良く」「凍てついた心を溶かす春の太陽」宜しくお願いします。)