特定の人物に対してネット上でしつこく絡んだり、インターネット上の行動を監視したり、その人に関する情報を深く詮索したりする行為を「ネットストーカー」や「サイバーストーカー」と言ったりします。「ネトスト」などと略されて呼ばれることもあります。
日本にはストーカー規制法という有名な法律がありますが、ネット上におけるストーカー行為も違法となるのでしょうか?もし自分がされたら非常に不快に感じるこの行為について法律ではどうなるのかを解説します。
■ストーカー規制法は適用しにくいのが現状
「ネットストーカーといえども、ストーカーである以上、ストーカー規制法を適用すればいいじゃないか。」と考えている人は少なからずいるようで、私のところにもそのような相談がたびたび寄せられます。
しかし、ストーカー規制法は基本的にネットストーカーには適用が難しいです。
ストーカー規制法が適用するためには、まずはその行為がストーカー規制法が予定する以下の行為類型に該当する必要があります。
1……つきまとい、待ち伏せし、進路に立ちふさがり、住居、勤務先、学校その他その通常所在する場所の付近において見張りをし、又は住居等に押し掛けること。
2……その行動を監視していると思わせるような事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。
3……面会、交際その他の義務のないことを行うことを要求すること。
4……著しく粗野又は乱暴な言動をすること。
5……電話をかけて何も告げず、又は拒まれたにもかかわらず、連続して、電話をかけ、ファクシミリ装置を用いて送信し、若しくは電子メールを送信すること。
6……汚物、動物の死体その他の著しく不快又は嫌悪の情を催させるような物を送付し、又はその知り得る状態に置くこと。
7……その名誉を害する事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。
8……その性的羞恥心を害する事項を告げ若しくはその知り得る状態に置き、又はその性的羞恥心を害する文書、図画その他の物を送付し若しくはその知り得る状態に置くこと。
ネットストーカーは、特定の人物のインターネット上の行動を監視している場合も多いため、2号の「行動を監視」に当たるとも思えます。
しかし、インターネット上の行動については、自分が全世界に向けて発信している情報を見ているだけということになるため、これを見ていたからといって「行動を監視」しているとすることはできません。
また、そもそも、ストーカー規制法の対象にするためには、「恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的」が必要です。
単に、思想や考え方の違いから対立していたり、嫌がらせ目的でネットストーカー的な行動をしている例がよく見られるところであり、この目的の要件を満たすのかという問題もあります。
したがって、ネットストーカーにはストーカー規制法の適用はしにくいのです。
■だからといって適法なわけでもない点には留意するべき
しかし、ストーカー規制法の適用が「しにくい」というだけであり、適用ができないというわけでは当然ありません。
恋愛感情に基づいて、上記各号に当たる行為をすれば、当然ストーカー規制法の適用ができます。
たとえば、その対象人物のものだと称して裸の写真(つまり実際には別人の裸の写真)をネット上に投稿した場合は、名誉を害する(7号)、あるいは性的羞恥心を害する(8号)として、ストーカー規制法の適用が可能です。
また、仮に恋愛感情がなくて、単に嫌がらせ目的であっても、こののようなことをすれば、名誉毀損罪に当たる可能性が十分あります。
他にも、一方的に絡んでいる場合も見受けられますが、絡んだ上で何か不当な要求をしている場合は強要罪、生命・身体・自由・名誉・財産に危害を加えるような言動をとっていれば脅迫罪、金銭の要求をしていれば恐喝罪、など違法になる可能性があります。
*ただし、実際には議論をしている間にちょっと言い過ぎたといったことも多々あるため、これを警察が扱ってくれるかというと、なかなか難しいものもあります。
*著者:弁護士 清水陽平(法律事務所アルシエン。インターネット上でされる誹謗中傷への対策、炎上対策のほか、名誉・プライバシー関連訴訟などに対応。)