老人が骨董市で入手した戦前のわいせつ写真をデジカメで撮影し、それを印刷したものを売ったということで逮捕されました。
老人がどのような意図で販売したのかは不明ですが、その写真に性器が写っていれば、現行の法規制によれば、わいせつ物販売罪(刑法175条)となることは間違いありません。
刑法175条に違反すると、2年以下の懲役あるいは250万円以下の罰金に処せられます。インターネットにわいせつ画像が氾濫している現代において、重すぎると批判されていますし、そもそも、憲法21条が定める表現の自由に違反しているという議論もあります。
戦前や戦後すぐの時期は、文章であっても刑法175条に違反するとして処罰されました。欧米でベストセラーになった小説を日本語に翻訳して出版しただけで処罰された事件もあります。その出版物には文字しか書かれておらず、写真などが載っていたものではありません。
●わいせつの基準はどこで決まる?
判例によれば、刑法175条は善良な性風俗という社会的な法益を守るためのものであり、「徒に性欲を興奮又は刺激せしめ、且つ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義に反するもの」がわいせつ物であり、わいせつ物であるか否かは社会通念に従って判断するとしています。社会通念とは簡単に言えば社会常識です。
社会常識ですから時代と共に推移します。私の若いころは文章だけでわいせつ物と判断されることはなくなりました。写真などはアンダーヘアーが写っているとわいせつ物と判断されました。1990年代ころからは、アンダーヘアーが写っていてもわいせつ物と判断されなくなりました。今は、性器が写っていなければ、わいせつ物と判断されることはありません。
芸術作品であれば、性器が写っていてもわいせつ物と判断されないこともあります。しかし、芸術作品かわいせつ作品かを裁判官が判断出来るのかという根本的な疑問が提起されています。
●わいせつ物はあっても良い
善良な性風俗を維持するということは大いに結構です。そのために、わいせつ物の販売を一律に禁止することは大いに疑問です。ここからは私見ですが、性器が写っていてもそれを販売すること自体は処罰すべきではないと思います。ただ、販売する場所がコンビニとか普通の本屋である場合は、処罰しても良いと思います。
現在は、性器が写っていなければ、コンビニでAVやエロ本が堂々と売られています。それは禁止して欲しいと思いますが、繁華街の専門店などで販売することは許しても良いと思います。あるいはマニア同士が直接やりとりすることも禁止する理由はありません。
子供と一緒にコンビニに行ったときに、エロ本コーナーがあると言葉に詰まります。そのような無限定な販売には何らかの規制をして欲しいと思いますが、マニアがマニア同士で販売することにまで公権力が口出しをするのはやり過ぎだと思います。
ちなみに、児童ポルノは一律に規制すべきですが本稿では深入りしません。
*著者:弁護士 星正秀(星法律事務所。離婚、相続などの家事事件や不動産、貸金などの一般的な民事事件を中心に、刑事事件や会社の顧問などもこなす。)