最近、生徒が教師を怒らせ、故意的に体罰を与えさせ、処分に追い込むというケースがあるようです。
そのような行動をとる生徒達をモンスターペアレントの子供バージョンとして、「モンスターチルドレン(モンチル)」などと呼ぶようです。
驚くべきことに、生徒は教師が手をあげたら終わりだということを理解しており、そのような行動に走っているようです。いわば「教師いじめ」と言っても過言ではないこの状況ですが、この行為に違法性はあるのでしょうか?
■体罰は学校教育法と刑法で禁止されている
学校教育法11条 は、「校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、文部科学大臣の定めるところにより、児童、生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない」と規定し、体罰を禁止しています。
また、刑法上、体罰は、暴行罪や傷害罪にも該当します。
刑法上の暴行罪は、不法な有形力の行使(典型的には暴力)を意味しますので、比較的基準が明確です。
一方、学校教育法には、禁止される体罰について明確な定義がなく、許される「懲戒」と禁止されるべき「体罰」のボーダーラインはときに曖昧です。
■文科省の指針
文科省は、学校教育法上禁止される体罰と許される懲戒の区別の基準をある程度示しており、参考になります。
・体罰の例
前の席の児童に足を当てた児童を、突き飛ばして転倒させる
部活動顧問の指示に従わなかった生徒の頬を殴打する
給食の時間を含めて生徒を長く別室に留め置き室外に出ることを許さない。
宿題を忘れた児童に対し教室後方で正座するよう言い、児童が苦痛を訴えたが、そのままの姿勢を保持させる
・懲戒・正当行為の例
児童が教員の指導に反抗して教員の足を蹴ったため、児童の背後に回り、体をきつく押さえる
殴りかかろうとする生徒を押さえつけて制止させる
大声を出して授業を妨げる生徒を冷静にさせ、別の場所で指導するため、別の場所に移るよう指導したが、なおも大声を出し続けて抵抗したため、生徒の腕を手で引っ張って移動させる
■挑発による体罰
授業妨害により他の児童生徒にも悪影響があったり、教員を侮辱・暴行する行動がある場合は、文科省の基準でいう許される懲戒・正当行為に該当すると考えられ、教師が必要かつ相当な有形力を行使することは適法です。
■教師の解雇や処分の相当性
適法な懲戒・正当行為に該当する有形力行使(力の行使)を行った教師に対し、生徒の親の不当な圧力に学校が屈して解雇や懲戒処分とした場合、当該処分は無効となる可能性が高いでしょう。
一方、違法な体罰に該当する行為を行った教師を学校が処分することは当然可能です。
*著者:弁護士 星野宏明(星野法律事務所。不貞による慰謝料請求、外国人の離婚事件、国際案件、中国法務、中小企業の法律相談、ペット訴訟等が専門。)