公安警察官が京都大学構内で内偵活動中、学生らにそれが発覚し、拘束されたというニュースが話題になりました。
拘束後、学校当局が用意した部屋で副学長が公安警察官に事情を聞いたということです。事情聴取の時間が数時間かかり、その間京都府警が大学構内に入ろうとしたり、機動隊が 大学を取り囲んだり、大騒ぎになったということです。
内偵活動自体は、任意捜査の一環として認められます。任意捜査ですから他人の権利やプライバシーを同意なく侵害することは許されません。裁判所の令状があれば、他人の権利を侵害する強制捜査も許されますが、本件では令状が発付されていませんから、強制捜査は違法です。
問題は、大学構内に大学当局の許可なく立ち入ることが出来るか、および部屋に閉じ込めた行為についてです。検証してみましょう。
●警察は住居侵入罪になる恐れ
判例によれば、管理者(本件では大学当局)の許可なく侵入する行為は住居侵入罪となります。これに対し、平穏に立ち入るのであれば、たとえ管理者の許可がなくても住居侵入罪にならないという有力な少数説がありますが、その議論はしません。
判例を前提に考えると、大学当局の許可なく公安警察官が大学構内に立ち入れば、住居侵入罪となります。公安警察官は現行犯人となりますので、警察官以外の私人でも逮捕できます。刑事訴訟法213条によれば、現行犯人は警察官以外の私人でも逮捕できると定められています。従って、私人である学生が公安警察官を拘束(逮捕)したこと自体は適法です。
●京大側による部屋に連れ込んだ行為は逮捕・監禁罪に?
問題は、その後、公安警察官を大学当局が用意した部屋に連行し、副学長が長時間に渡り質問したことです。連行の態様や質問方法など詳細なことは判明しませんが、多数が威圧して公安警察官が逃げられないような状態になっていたとするならば、逮捕・監禁罪になる可能性があります。
刑事訴訟法214条によれば、警察官以外の私人が現行犯人を逮捕した場合には、すぐに最寄りの警察に連絡し、警察官に逮捕者を引き渡さなければならないと定めているからです。従って、公安警察官が許可なく大学構内に侵入したことを発見した学生が、公安警察官を拘束(逮捕)すること自体は適法ですが、すぐに最寄りの警察に連絡し、現行犯人(公安警察官)を引き渡すべきであったと言えます。
それをせずに、長時間質問したことは、上記の通り、逮捕監禁罪になる可能性があります。
ちなみに、有名なポポロ事件と本件は全く異なります。ポポロ事件では、大学当局が警察官が大学構内に入ることを許可していますので、住居侵入罪の問題は生じません。
もう一つ補足しますと、近所の方が大学構内に散歩しに入るようなことは、たとえ明確な許可を得ていなくても、住居侵入罪になりません。その程度の立ち入りは大学当局が暗黙のうちに許可しているからです。
*著者:弁護士 星正秀(星法律事務所。離婚、相続などの家事事件や不動産、貸金などの一般的な民事事件を中心に、刑事事件や会社の顧問などもこなす。)