得体の知れない「なりすまし」が自分を名乗って情報を発信している…もしこんなことをされたらどうすれば良いのか分からないかもしれません。
しかし、ネット上の「なりすまし」による書き込みで被害を受けていた女性が、Facebookに対して情報開示を求め、東京地裁がIPアドレスの開示を命じる決定をしました。
「なりすましでIPアドレスの開示は初」ということで比較的大きく報じられた今回の件について、どういう場合に違法と判断されるのかを解説していきます。
■「なりすまし」だけでは違法ではない
よく言われることですが、「なりすまし」をしただけでは、違法と判断することは難しいのが現実です。
同姓同名の他人ということもあり得る以上、氏名が同じということだけでは「なりすまし」とはそもそも言えないということになりますし、SNSへの登録が必ず実名でなければいけないというわけでもないため、それがペンネームとして使用されたということもあり得るわけです。
そのため、「なりすまし」といえるためには、名前のほかに、自分のことを指しているといえる情報を読み取ることができるかどうか、ということがポイントとなります。
色々あり得ますが、たとえば、生年月日、血液型、出身地、出身校、職場、普段行っている活動等々に関する情報を複合的に組み合わせることで、自分を指しているといえるかどうかを検討することになります。
なお、「自分のアカウント(やユーザー名など)が真似をされている」として、「なりすまし」だと訴える人もいますが、それだけでは不十分です。第三者から見て、現実の「自分」になりすまされているかどうか、ということが重要になります。
■「なりすまし」が権利侵害といえるためには
「なりすまし」だと判断することができるとして、権利侵害があるかどうかというのは、また別の話です。そのため、次に権利の侵害があるかどうかということを検討する必要があります。
権利侵害として通常考えられるのは、プライバシー侵害と名誉権侵害です。
先に示したような「生年月日、血液型、出身地、出身校、職場、普段行っている活動等々」をそもそも公表していないようであれば、それが読み取れる時点でプライバシー侵害といえる余地が出てきます。
また、たとえば頭がおかしい人であるかのように振る舞った書込みをしているようであれば、社会的評価の低下をもたらすので名誉権侵害があるといえる余地が出てきます。
このように、権利侵害があるかどうかは、個別に内容を見て判断をしていくしかありません。
■今回の決定
今回の決定は、「なりすまし」の態様が悪質であったため、開示を認める決定を発令してくれました。
ただ、あくまでFacebookから開示を受けることができるのはIPアドレスです。これだけでは、誰が実際に「なりすまし」をしているのかということまでは分かりません。
そのため、現在、さらにプロバイダに対して開示請求をしているところです。「なりすまし」の事案は以前から継続的に発生しているので、そもそも「なりすまし」自体が違法と認められるような認定を目指していきたいと考えています。
*著者:弁護士 清水陽平(法律事務所アルシエン。インターネット上でされる誹謗中傷への対策、炎上対策のほか、名誉・プライバシー関連訴訟などに対応。)