近年、ゴミの分別ルールが守られていないことなどを理由に、家庭ごみの中身を調べて違反者を特定する、いわゆる「開封調査」を実施する自治体が増加しています。報道によれば、いくつかの政令指定都市では既に実施されており、今後も導入する自治体は増加する見通しとのことです。
しかし、家庭ごみは、これを排出した人の私生活を反映するプライベートなものであることから、自治体がこれを開封することは違法ではないかという懸念もあります。
法的な問題を除いても、単純にゴミを見られるという事に対して気持ち悪いと思う方も多いのではないでしょうか。
そこで、今回は、開封調査実施の背景や法的問題、自治体によるゴミ処理のあるべき姿などを考えます。
■開封調査が実施される背景
平成12年以降、国が実施してきたゴミ削減の取組により、ゴミの総量の削減やリサイクルの定着という一定の成果は出たものの、金属資源の再利用等、未だゴミをめぐって取り組むべき問題は多く、ゴミの分別収集は手を抜けない状況となっています。そのため、家庭ごみの処理についても各世帯に「正確な分別」を求める必要があります。
また、一部の家庭ごみについては、何らの分別もなされていない悪質な態様で廃棄される例が見受けられます。
このような事情から、開封調査に乗り出す自治体が増加しているようです。
■開封調査の法的問題
冒頭にも述べたとおり、家庭ごみはこれを輩出した人の私生活を反映するプライベートなものであり、通常は「他人に見られたくないもの」が含まれています。ゴミの中身を覗かれないこと、その中身によって不利益を与えられないことなどは、憲法13条に基づく「プライバシーの権利」の1つとして保障されると考えられます。
このような視点から考えると、開封調査もその方法によっては、この「プライバシーの権利」を害する場合がありうるでしょう。
例えば、違反の可能性が低い、あるいは、ないにもかかわらず開封調査を行なうことや、開封調査の結果、違反者の名前を公表すること(あるいはそれと同様の効果がある措置をとる)などは、プライバシー権侵害の可能性が高いのではないでしょうか。
違反者を特定するための全開封調査は問題ないとする有識者もいるようですが、違反していない人がプライバシーを覗かれるいわれは本来ないのですから、これが正当化されるためには、例えばその地域のゴミ分別状況が極端に悪く、違反者を特定する必要性が極めて高いなど、それ相応の条件が必要になると思われます。
■開封調査の前に行政がすべきこと
現在のゴミ分別のルールは非常に細かく、また自治体ごとにも異なっており、非常にややこしく、わかりにくいものです。また、行政が求める分別を実施するためには、分別用のゴミ箱を各家庭で用意する必要も生じます。自治体によっては、専用のゴミ袋の使用を住民に義務付けているところもあります。住民にとっては、ゴミ処理のための経済的な負担も決して少なくない上、ゴミ箱設置の場所も確保しなければならない負担もあります。
このような問題が分別ルールの違反につながっていることは明らかでしょう。
開府調査をする前に、行政は、各家庭が分別しやすい環境づくりを行うべきではないでしょうか。例えば、分別ルール自体を見直す、分別用ゴミ箱の購入者には一部補助を行うなどの対応が考えられるでしょう。
*著者:弁護士 寺林智栄(琥珀法律事務所。2007年弁護士登録。法テラスのスタッフ弁護士を経て、2013年4月より、琥珀法律事務所にて執務。)