弁護士になってあと少しで8年目に突入します。
この間、様々な裁判を経験してきましたが、今回は、裁判中に経験したびっくりな出来事をお話ししたいと思います。
■裁判官、被告人質問中に本気で寝る。
今から2年ほど前、東京地方裁判所での出来事です。
とある刑事事件。私は緊迫感をもって被告人に質問し、検察官も、質問や答を一生懸命メモしていました。法廷はそれなりの緊張感に包まれていました。
ふと、裁判官席に目をやりました。すると、裁判官は、頭を真下に垂れていました。誰の目から見ても、「ガチ寝」であることは明らかでした(ちなみに、この事件は、裁判官が一人で担当する「単独事件」でした)。
裁判官が3人の合議事件の場合には、証人尋問や被告人質問がかなり長時間に及び、裁判官の一人が舟を漕ぎだすという場面を何度か目にしたことがあります。しかし、他に裁判官がいない単独事件の法廷で、しかも「ガチ寝」なんて見たことがありません。
私は、この裁判官の「なめてる態度」に、カチンときました。どうしてくれよう…わざとらしく物でも落としてやるか…
色々考えましたが、最終的には、かなり大きな声で「裁判官、聞いていただけてますでしょうか?」と言いました。
裁判官が飛び起きた時に、メガネが大きくずれたのは今でも忘れません。
■傍聴マニア、なぜか離婚裁判に押し寄せる。
名古屋で弁護士をしていた頃の話です。私は、刑事事件を数多く担当していました。
東京では、「霞っ子クラブ」や芸人の阿曽山大噴火さんなどを代表とする「傍聴マニア」が多数いることが知られていますが、実は、名古屋にも当時すでに結構な人数の傍聴マニアさんがおりました。皆さん顔見知りなのか、裁判所に行くと、よく法廷の合間に世間話をしていらっしゃいました。
私は、刑事で色々な事件をやっていて、その裁判にもよく皆さんが傍聴にいらしていました(傍聴マニアの多くは刑事事件を傍聴します)。
私のことを覚えてくださる方もおり、「先生、いつも大変だね」、「あの子はたぶん執行猶予だよ、大丈夫!!」などと声をかけられることもしばしばでした。
そんなある日、夫婦が真っ向から争っている離婚訴訟の当事者尋問が行われた時のことでした。
民事事件や家事事件の法廷は、刑事事件とは異なり、ほとんどの場合、傍聴席はスカスカです。この時も、私はそのつもりで、自分の依頼者を伴い、法廷の扉を開けました。
小さい法廷でしたが、傍聴席の3分の2ほどが埋まっていました。しかも、座っている人の多くは、顔見知りの傍聴マニアさんたち。一瞬法廷を間違ったのかと思い、法廷の番号をもう一度確認してしまうくらい驚きました。
傍聴マニアさんの方も、まさか私が来るとは思っていなかったようで、ちょっと気まずそうな表情を浮かべていました。
傍聴マニアのみなさんは、受付に置かれている「開廷表」というものを見て、その日どのような事件について法廷が開かれるのかチェックしてから傍聴します。おそらく、この日は、刑事事件で、皆さんの興味を引く裁判がなかったのではないでしょうか。離婚訴訟の尋問となれば、夫婦生活のあれこれなど、後で酒の肴になりそうな話にあふれていて面白そう。そんな目星をつけて、お越しになったものと思われます。
しかし、残念ながら、このときの尋問では、「夫婦生活のあれこれ」に関する話は乏しく、尋問の最中に大方の傍聴マニアさんは退席されたのでした…。
*著者:弁護士 寺林智栄(琥珀法律事務所。2007年弁護士登録。法テラスのスタッフ弁護士を経て、2013年4月より、琥珀法律事務所にて執務。)