■事件の概要
2012年、インターネット上に無差別殺人や小学生襲撃の予告が書き込まれた事件(以下「本件」といいます。)で、IPアドレスなどの捜査をもとに男性4人が逮捕されたが、その後、PCが遠隔操作されていたことが判明しました。
2013年2月、本件の犯人として、インターネット関連会社の元社員片山祐輔が威力業務妨害の嫌疑で逮捕・勾留され、起訴されました。
片山被告人は、逮捕当初から一貫して無罪を主張しており、2014年3月に保釈されました。しかし、同年5月20日、真犯人を名乗るメールを送ったことを認めたことなどを理由に、保釈は取り消され、東京拘置所に勾留されました。
■保釈、保証金とは
保釈とは、保証金の納付等を条件として、勾留の効力を残しながらその執行を停止し、被告人の身体の拘束を解く制度をいいます。被告人は有罪の判決を受けるまで無罪と推定されているのですから、できる限り身体の拘束を避けることが望ましいのです。
もっとも、保釈を許す場合には、必ず保証金額を定めなければなりません(刑事訴訟法(以下「法」といいます。)93条1項)。その金額は、犯罪の性質及び情状、証拠の証明力並びに被告人の性格及び資産を考慮して、被告人の出頭を保証するに足りる相当な金額でなければなりません(法93条2項)。その他に、被告人の生活環境、身元引受人の有無、他事件との均衡なども考慮されます。
■保釈の取消し、保証金の没収について
保釈が取り消されると、裁判所の決定により保証金の全部又は一部を没収されることがあります(法96条2項)。
もっとも、法96条1項各号の保釈取消事由に該当するとして保釈が取り消されることは、実務上、極めて少ないです。また、保釈が取り消されたとしても、保証金の全部又は一部が必ず没収されるわけではなく、没収されないこともあります。
本件についてみると、片山被告人が、真犯人を名乗るメールを送ったことを認めたことや、一時連絡が取れなくなったことを理由に保釈が取り消されていることから、法96条3号の罪証隠滅のおそれ、及び、同2号の逃亡のおそれを理由に保釈が取り消されたと考えられます。
また、本件では、保証金1,000万円のうち、600万円を没収し、残り400万円は今後返還されるとされています。このように、保証金の全部ではなく一部しか没収されなかった理由として、弁護団は、保証金は被告人の母親が自分の生活資金から準備したことなどを考慮して全額没収としなかったのではないかとしています。
*著者:弁護士 鈴木翔太(法律事務所ホームワン。東京弁護士会所属。「依頼者の立場に立って考える」ということを基本に据えている。)