新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言は、各所に様々な影響を与え、ライフスタイルの変更を迫られています。
特に会社員の生活は激変。これまで会社に出勤し仕事をこなしていましたが、政府や都道府県知事の要請により、在宅勤務者が増加。さらに土日祝日は外出自粛で出かけられず、ひたすら家にこもるような生活を強いられことになりました。
部屋の騒音がキッカケの事件が多発
そんな「家籠もり生活」は様々なトラブルを生みました。とくに目立ったのが、アパートやマンションなど集合住宅の騒音問題です。東京都では足立区内のアパートで、「騒音がうるさい」と憤った男が、包丁を持って押し入り、居住者を殺害する事件も発生しています。
殺人という行為はどのようなことがあっても許されるべきはありませんが、犯人は「我慢の限界だった」と話しており、騒音に悩まされている人からは、その動機について理解を示す声もあるようです。
犯罪行為ではなく、法に則ったやり方で騒音を出す居住者に声を上げていくことはできないのか。実際にどうすればいいのかを、法律事務所あすかの冨本和男弁護士に質問してみました。
騒音を撒き散らす人間を訴えることはできる?
冨本弁護士:「余りにも酷い場合、慰謝料や騒音の差し止めを求めて訴えることは可能です。ただし、訴えに費やす労力・費用・時間を考えると割が合わないかと思います。
相手方の騒音が一般人が社会生活で我慢すべき限度を超える場合、騒音を発生させる原因となる相手方の行為は違法(不法行為)ですので、被害を受けている方は、相手方に対し、そうした行為の差し止めを求めたり、精神的な損害について慰謝料を求めたりすることが出来ます。
しかし、訴える方は、相手方を訴える場合、相手方の騒音が一般人が社会生活で我慢すべき限度を超えると述べるだけでは駄目で、住居周辺の騒音規制を確認したり、住居の遮音性能を確認したり、ある程度の期間、相手側から侵入してくる騒音を録音したり、騒音計で測定して記録したりして証拠を集め、〇〇デシベルを超えて法律違反だといった主張をしていく必要があります。こうしたことは、誰でもできる簡単なことではありません。
訴える方は、建築士や調査会社に相談したり、弁護士に依頼したり、訴えた後でも、裁判所に出向いたり、専門委員を入れてもらったり、鑑定をしてもらったりして、労力・費用・時間をかけて裁判に関わる必要があります」
手立てはあるようですが、騒音問題で相手方を提訴することは、実際のところ弁護士の目から見ると「割りに合わない」「簡単なことではない」と感じてしまうようです。仮に訴えるなら、頭に入れておかねばなりませんね。
紹介した業者に責任は?
賃貸物件などでは不動産仲介業者に部屋の特徴を訪ね、説明を受けることが一般的です。なかには「音の静かな物件で」と条件をつける人もいることでしょう。
仲介業者から「静か」「遮音性の高い物件」と紹介されたにもかかわらず、住んでみるとうるさかったなんてことも、よくあると聞きます。その場合、仲介業者を訴えることはできないのでしょうか? 冨本弁護士に聞くと…
冨本弁護士:「『遮音性が高い』と説明して住居を販売しただけでは、詐欺等の犯罪に当たらないのが普通ですし、訴えるのも難しいと思います。『遮音性が高い』と説明されただけでは、どの程度の遮音性か明らかでありませんので、契約内容になっていないのと同じだからです。
契約の中で遮音性(透過損失・遮音性能等級)について一定数値以上といった形で相手方に保証してもらっていたのであれば、契約内容に適合しないということで、修理や代金の減額や契約の解除や損害の賠償を求めて訴えることもできると思います」
口頭ではなく、しっかり書面で遮音性の数値が提示されていない限り、「遮音性の高い物件」と説明され、仮に虚偽と感じたとしても、仲介業者を訴えることは現実的に難しいのですね。
悪いのは誰なの?
騒音を立てている人や紹介した仲介業者を訴えることができないということになると、騒音に困っている人間としては、「我慢できない自分が悪い」といわれている気分になってしまいます。
実際悪いのは、「我慢できない人」「仲介・販売業者」「管理会社」「騒音を立てている人間」のうち、誰なのでしょう。冨本弁護士に聞いてみました。
冨本弁護士:「一般的な住宅である程度の騒音があるのは仕方のないことです。騒音が紛争にまで発展してしまうのは、騒音の原因・程度、関係者の性格、交渉の経緯、解決のための関係者の努力等々によりケースバイケースであり、誰に責任があるとは一概に言えないと思います」
相談者を見つけて冷静な対応を
騒音問題に悩む人は意外と多いといわれます。我慢の限界に達しそうな場合は、一度怒りの感情を飲み込み、管理会社への連絡はもちろん、家族や弁護士に相談し、解決策を探っていきましょう。
*取材協力弁護士:冨本和男(法律事務所あすか。企業法務、債務整理、刑事弁護を主に扱っている。親身かつ熱意にあふれた刑事弁護活動がモットー)
*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています)