コロナ感染で社員を解雇は可能? 会社の責任を問うことは? 疑問を弁護士が解説

新型コロナウイルスの感染拡大が止まらず、不安を訴える声が続出しています。政府は在宅勤務やテレワークを推進していますが、自宅ではできない職種も多く、経営者は頭を悩ませているようです。

 

コロナ感染者を出した場合の対応は…

出勤している人、そして経営者にとっても不安なのが、職場での集団感染。いわゆる「クラスター」呼ばれるもので、非常に危険です。

経営者としては、社員の感染は労働力と信用を著しく落とすことになりかねませんから、感染者を出さないよう、対策を講じているのではないでしょうか?

しかし、様々な理由で感染してしまう人が出ていることも事実。感染者が出た場合、会社はどのような対応を取ればいいのでしょうか?法律事務所あすかの冨本和男弁護士に質問してみました。

冨本弁護士:「感染拡大を防ぐため、社員の出勤を停止させて休業し、地方自治体や保健所の指示に従いましょう」

 

感染者に会社が「懲戒」を与えることは?

新型コロナウイルスを意図的に感染する人は皆無。患ってしまった人を責めるのは実に酷な話です。

しかし、無理をして出勤し、他のスタッフに移すなどした場合、会社として「懲戒」を検討する経営者も出てくる可能性も否定できません。そのような行為は、法的に認められるのでしょうか? 法律事務所あすかの冨本和男弁護士に質問してみました。

冨本弁護士:「難しいと考えます。まず、解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効となります(労働契約法第16条)。

社員が検査で自身の感染を知り、既に症状が出ていて、会社から自宅待機を指示されたにもかかわらず、他の社員に感染させて会社の業務を妨害する意図で出勤し、他の社員に感染させ会社を休業状態にした等の非常に悪質な場合であれば解雇が有効となる場合もあるかもしれませんが、基本的に解雇は難しいと考えます。

懲戒権を行使するためには、あらかじめ就業規則に懲戒の「種別」と「事由」を定めておく必要があり、懲戒事由に該当しなければ懲戒権を行使することができません。

仮に就業規則上の懲戒事由に該当する場合でも、懲戒権の行使が、対象となる労働者の行為の性質・態様・その他の事情に照らして、それが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には権利の濫用として無効となります。

社員が会社の指示に従わず重大な結果を招いた場合は一定の懲戒処分を下すことができるかもしれませんが、そうでもなければ、なかなか難しいのではと考えます」

 

会社で移された人が訴えることは?

新型コロナウイルス感染者に経営者が懲戒処分とすることは難しいことがわかりました。それでは逆に会社でウイルスを「移された」人が、会社に対し安全管理義務違反などに問うことはできないのでしょうか?

法律事務所あすかの冨本和男弁護士に聞くと…。

冨本弁護士:「これもなかなか難しいのではと考えます。

確かに,会社は労働契約上の付随義務として、労働者の生命や身体等の安全に配慮する義務を負っています(労働契約法第5条)。

しかし,安全配慮義務の内容は、職場やその時々の状況によって変わってきますので、会社が極めて感染リスクの高い状況を知りつつ放置していたような場合でもなければ難しいのではと思います」

 

専門家に相談を

緊急事態だけにケース・バイ・ケースなことも多い様子。法的に不明点がある場合は、専門家に相談してみましょう。

 

*取材協力弁護士:冨本和男(法律事務所あすか。企業法務、債務整理、刑事弁護を主に扱っている。親身かつ熱意にあふれた刑事弁護活動がモットー)

*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています)

冨本和男
冨本 和男 とみもとかずお

法律事務所あすか

東京都千代田区霞が関3‐3‐1 尚友会館4階

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