相次ぐ保釈中人物の逃亡事件!今後取るべき対策を弁護士が解説

近年、保釈中の被告が逃亡する事件が多発。とくに元自動車企業経営者の被告が、レバノンに逃亡する事件は、各方面に強い衝撃を与えました。仮に保釈中に海外逃亡した場合、罪は重くなるのでしょうか? パロス法律事務所の櫻町直樹弁護士に詳細をお聞きしました。

 

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保釈中の逃亡は罪が重くなるのか?

櫻町弁護士:「保釈というのは、検察官によって起訴された被告人につき、被告人本人や弁護人などからの請求に基づき(または裁判所の職権で)、裁判所が(被告人による保釈保証金(保釈金)の納付を条件として)一時的・暫定的に、被告人の身体拘束(勾留)を解くことをいいます(なお、起訴前における保釈は認められていません)。

勾留は、被告人にとって大きな負担であるので、保釈の請求があれば、裁判所は原則として保釈を認めなければならず、これを「権利保釈」といいます。しかし、殺人や放火など一定の重大犯罪を理由に起訴されている場合、証拠を隠滅するおそれがある場合など、法律で定められたいくつかの場合に該当するときには、裁判所は例外的に保釈を認めないことができます。

もっとも、この例外にあたる場合でも、具体的事情によっては、裁判所の判断で保釈を認めることができ、これを「裁量保釈」といいます。では、保釈中の被告人が逃亡した場合、どのような犯罪に問われるかについて、(意外な印象を持つかもしれませんが)逃亡それ自体は犯罪になりません。

刑法には、「第六章 逃走の罪」として(いくつかの類型の)逃走罪が規定されていますが、これらの犯罪は、逃走の主体が「裁判の執行により拘禁された既決又は未決の者」、「勾引状の執行を受けた者」など、一定の要件を満たす場合に成立します。

保釈中の被告人は、このような「一定の要件」を満たさないので、逃走罪は成立しません。ただし、何もペナルティがないという訳ではなく、逃亡した場合には保釈が取消しとなり、納付した保釈金は没取(没収)されることになります。

 

刑事訴訟法第96条

1 裁判所は、左の各号の一にあたる場合には、検察官の請求により、又は職権で、決定を以て保釈又は勾留の執行停止を取り消すことができる。
一 被告人が、召喚を受け正当な理由がなく出頭しないとき。
二 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
三 被告人が罪証を隠滅し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
四 被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え若しくは加えようとし、又はこれらの者を畏怖させる行為をしたとき。
五 被告人が住居の制限その他裁判所の定めた条件に違反したとき。
2 保釈を取り消す場合には、裁判所は、決定で保証金の全部又は一部を没取することができる。

つまり、「逃亡(や罪証隠滅など、刑訴法96条1項に規定された事由に該当)した場合には、保釈が取り消され(=再び身体が拘束される)、納付した保釈金が没取される」というペナルティを科すことで、被告人の逃亡(や、裁判所への不出頭等)を防ぐ、という仕組みになっている訳です。

もっとも、「保釈金を没取されても構わない」という被告人の場合は、保釈金を納付させることによって逃亡を防止することはできない、ということになります。

ただ、保釈中にどのくらい「逃亡」が発生しているかをみてみると、例えば(一社)日本保釈支援協会ウェブサイト(https://www.hosyaku.gr.jp/bail/data/)には、保釈を許可された被告人員数・保釈を取り消された被告人員数について、以下のようなデータがあります。

平成20年以降につき、保釈を許可された被告人員数/保釈を取り消された被告人員数(取消率は、保釈が取り消された人数を保釈を許可された人数で割って計算しました)
平成20年 11,058/29(0.26%)
平成21年 11,513/55(0.48%)
平成22年 12,161/54(0.44%)
平成23年 12,021/56(0.47%)
平成24年 12,776/66(0.52%)
平成25年 12,072/57(0.47%)
平成26年 13,646/54(0.40%)
平成27年 15,446/91(0.59%)
平成28年 16,678/80(0.48%)
平成29年 17,297/98(0.57%)
平成30年 17,462/140(0.80%)

※保釈が取り消される理由としては、「逃亡」だけでなく「罪証隠滅」や「召喚を受けて出頭しないとき」等もありますので、逃亡による保釈の取消数はもう少し低くなると思われます。ちなみに、平成14年から平成19年については法務省ウェブサイト(http://www.moj.go.jp/content/000003845.pdf)にもデータがありますが、ここに記載されている取消率をみると、0.2%台から0.4%台で推移していることが分かります。

このデータからすれば、「保釈中に逃亡」というケースは、割合でいえば1%に満たない非常に少ないものであることが分かります」

 

海外逃亡した場合手出しができない?

保釈中の逃亡で、現状罪が重くなることはないようです。そうなると、レバノンのような犯罪者引き渡し条約のない国に海外逃亡してしまえば、日本の司法は「手出しができない」状態になってしまうように思えます。

実際のところどうなのでしょうか? パロス法律事務所の櫻町直樹弁護士に見解をお聞きしました。

櫻町弁護士:「保釈中の被告人が逃亡し、保釈が取り消された場合、再び勾留されることになりますが、勾留は強制的な身体拘束、すなわち「国家主権の行使」ですから、被告人が日本国外のいずれかの国に滞在している場合、当該国の承認を得ずに勾留すれば当該国の主権を侵害することになってしまいます。

そのため、国外にいる被告人を勾留するに際しては、当該国の協力を求めるということになるでしょう。例えば、平成22年版「警察白書」には、

「被疑者が国外に逃亡した場合には、外交ルートやICPOルートにおける関係国の捜査機関等との捜査協力や刑事共助条約に基づく捜査共助の実施を通じ、被疑者の人定や所在の確認等を進めている。その上で、犯罪人引渡条約等に基づいて被疑者の引渡しを受けたり、被疑者が逃亡先国で退去強制処分に付された場合には、その被疑者の身柄を公海上の航空機で引き取ったりするなどして確実な検挙に努めている。このほか、事案に応じ、国外逃亡被疑者等が日本国内で行った犯罪に関する資料等を逃亡先国の捜査機関等に提供するなどして、逃亡先国における国外犯処罰規定の適用を促している」

(下線部は強調のため筆者が付した)との記述があります。

ただし、被告人が、例えばレバノンに滞在しているという場合、現在、日本とレバノンとの間に犯罪人引渡条約は締結されていないので、犯罪人引渡条約に基づく引渡しを求めることはできず、仮に、日本がレバノンに対して引渡しを要請したとしても、これに応じるかどうかはレバノン側の決定に委ねられることになるでしょう。

この点につき、平成30年版「犯罪白書」には、

逃亡犯罪人引渡条約を締結していない外国との間で、逃亡犯罪人引渡法(昭和28年法律第68号)に基づき、相互主義の保証の下で、逃亡犯罪人の引渡しの請求に応ずることができるとともに、その国の法令が許す限り、逃亡犯罪人の引渡しを受けることもできる。」(下線部は強調のため筆者が付した)、「逃亡犯罪人引渡条約を締結することで、締約国間では、一定の要件の下に逃亡犯罪人の引渡しを相互に義務付けることになるほか、我が国の逃亡犯罪人引渡法で原則として禁止されている自国民の引渡しを被要請国の裁量により行うことを認めることにより、締約国との間の国際協力の強化を図ることができる。我が国は、米国(昭和55年(1980年)発効)及び韓国(平成14年(2002年)発効)との間で、逃亡犯罪人引渡条約を締結している」

との記述があります」

 

保釈中の逃亡を防ぐ手立ては?

海外に逃亡してしまった場合、「当該国の協力を求める」以外の選択肢はないようです。保釈中の逃亡を防ぐ手立てはないのでしょうか? パロス法律事務所の櫻町直樹弁護士に見解を聞くと…。

櫻町弁護士:「上述のとおり、被告人の逃亡等を防ぐために保釈金を納付させている訳ですが、被告人の資力によっては「保釈金を没取されてもよいから逃げたい」と考えてしまうケースもあるかもしれません。それを防ぐためには、「保釈金の金額を増額する」か、「逃亡等を防止する別の手段を講じる」かということになりますが、後者については、「被告人にGPSを装着し、常に所在を把握できるようにしておく」という手段が考えられます。

海外の例ですが、中国通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)の副会長がカナダで逮捕されたときは、保釈する条件としてGPS付追跡装置が装着されました(https://www.asahi.com/articles/ASN1P1FN5N1NUHBI02Z.html)。

ただし、判決で有罪が言い渡されるまで、被告人には「無罪の推定」がなされる訳ですから、逃亡を防止するためとはいえ、24時間その所在を把握することが妥当か、プライバシーの過度な制約ではないか、という問題は当然出てくるでしょう。

「被告人の裁判への出頭を確保する」という司法上の要請と、「無罪推定」が及ぶ被告人の権利とのバランスをどのように調整するのか、また、仮にGPSを装着するとした場合には保釈金は不要とするのか等、検討が必要になってくると言えるでしょう」

 

現行法に限界か

保釈中の逃亡が相次いでいる現在。保釈金の増額やGPSなどを検討する時代に入っているのかもしれません。

 

*取材協力弁護士:櫻町直樹(パロス法律事務所。弁護士として仕事をしていく上でのモットーとしているのは、英国の経済学者アルフレッド・マーシャルが語った、「冷静な思考力(頭脳)を持ち、しかし温かい心を兼ね備えて(cool heads but warm hearts)」です。)

*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています

櫻町 直樹 さくらまちなおき

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