仕事でお金をさわる機会がある方は、新入社員に「会社のお金に手を出したら1円でも横領だぞ」と教育しているでしょう。
たしかに、この教育方法は間違いではありません。
でも、こんな経験はありませんか?
仕事中にコンビニで買い物をしていて、うっかり財布を会社に忘れていたため会社から預かっていたお金から代金を支払い、会社に帰ってすぐに穴埋めした…
こんなケースでも、やはり横領の罪に問われてしまうのでしょうか?
「元刑事ライター」の鷹橋さんに聞いてみました。
この記事の監修者
振り込め詐欺や銀行員の巨額横領事件などの捜査を担当してきた元知能犯刑事。警察署勤務時代は幅広い事件を担当。 |
「横領」とはどんな犯罪か?
「横領」とは、刑法に定められた犯罪です。
他人のものを預かっているときに自分のもののように扱えば横領になります。
たとえば、「預かったお金を使う」「借りた車を転売する」「預かりものを隠す」といった行為が考えられるでしょう。
いわゆる「ねこばば」行為も該当するので、誰のものかわからない落とし物を拾って自分のものにしたときも横領です。
さらに「なぜ預かっているのか」に注目したとき、仕事として、組合やPTAなどのの役職として、といった場合では「業務上横領」になります。
より厚い信頼を裏切ったことになるので、単純な横領よりも刑罰が重たくなるのは当然ですね。
会社から預かったお金を使ってしまえば横領ですが、会社が “預けた” とはいえないお金に手を付けてしまえば「窃盗」です。
たとえば、コンビニの店員がレジのお金を使った場合は「お金を預かった」とはいえないので窃盗罪が成立します。
「ちゃんと返せるか」がポイントになる
「1円でも横領になる」ということは、会社から預かったお金には一切手を付けずに会社に持ち帰って会計処理をするのが基本です。
会社のお金を使って自動販売機で缶コーヒーを買うなんて、まさに「横領だ!」と指摘されてしまう行為になります。
では、会社から預かった1万円札と自分の財布に入っている1万円札を入れかえた場合はどうなるのでしょうか?
もちろん、会社のお金に手を付けてはいけないのですから、これも横領になる…なんて乱暴な理屈が通るはずはありませんよね。
当たり前のような理屈ですが、これが真理です。
使ってしまったお金と同額のお金をもっていれば、会社にバレてしまう前に返済できるので損害は生じません。
つまり、一時的に会社のお金に手を付けてしまっても、すぐにこれを返す意思があり、実際に返せるだけの持ち合わせがあれば、横領罪は成立しないのです。
多くの横領事件は「お金が足りない」ために発覚する
会社のお金をつかってもちゃんと返せば横領にならない、と聞けば「上手にまわせばバレない」と感じる方が多いはず。
ところが、この「上手にまわす」作業が大変です。
横領の罪に問われた多くの人たちが、この作業のどこかで自分のお金が足りなくなり、返済不能になって横領が発覚してしまいます。
ある横領の犯人は、10年近くもこの作業を繰り返しながら「毎日が地獄だった」と言っていました。
給料から使った会社のお金を穴埋めする「自転車操業」はまさに生き地獄、くれぐれも「すぐ返すから」なんて軽い気持ちで流用するのは避けましょう。