一部で議論される「大麻合法化」 弁護士はどう見る?

先日元お笑いタレントに続き、有名女優が合成麻薬MDMAを所持したとして、麻薬取締法違反の疑いで逮捕されました。詳しいことはわかっていませんが、芸能界には薬物汚染が広がっているようです。

 

一部には大麻合法化の声も

そんななか、一部の元タレントら数名が、日本で大麻を合法にするべきだと訴えています。現在は法律で禁じられていますが、「鬱病の治癒効果などがある」「諸外国で認められている国がある」ことを根拠に「医療使用は合法化するべきだ」と主張しています。

世間の反応は元タレントに大麻使用で逮捕歴があるだけに厳しい意見が多く、認めるべきではないとの声が大半。しかし、海外では認められている国があることも事実です。なぜ、大麻は違法なのか。そして今後、医療使用が認められる可能性はあるのか。

パロス法律事務所の櫻町直樹弁護士にお聞きました。

 

弁護士の見解は?

櫻町弁護士:「日本では、「大麻取締法」によって、大麻(草)の所持等につき一定の場合を除いて禁止されています。

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大麻取締法
【条文】
第1条 この法律で「大麻」とは、大麻草(カンナビス・サティバ・エル)及びその製品をいう。ただし、大麻草の成熟した茎及びその製品(樹脂を除く。)並びに大麻草の種子及びその製品を除く。
第3条 大麻取扱者でなければ大麻を所持し、栽培し、譲り受け、譲り渡し、又は研究のため使用してはならない。
2 この法律の規定により大麻を所持することができる者は、大麻をその所持する目的以外の目的に使用してはならない。
第4条 何人も次に掲げる行為をしてはならない。
一 大麻を輸入し、又は輸出すること(大麻研究者が、厚生労働大臣の許可を受けて、大麻を輸入し、又は輸出する場合を除く。)。
二 大麻から製造された医薬品を施用し、又は施用のため交付すること。
三 大麻から製造された医薬品の施用を受けること。
四 医事若しくは薬事又は自然科学に関する記事を掲載する医薬関係者等(医薬関係者又は自然科学に関する研究に従事する者をいう。以下この号において同じ。)向けの新聞又は雑誌により行う場合その他主として医薬関係者等を対象として行う場合のほか、大麻に関する広告を行うこと。
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大麻の「合法化」に関して、ウルグアイ、カナダ、アメリカ合衆国の一部の州などでは、大麻を(医療のためでなく)嗜好品として使用することが合法化されています(徐淑子「諸外国における大麻合法化の動きと日本の薬物乱用防止教育:ヘルスコミュニケーションにおける「信頼」の問題」ヘルスコミュニケーション雑誌第 10 巻第 1 号所収)。

また、大麻を医療用に使用することは、ヨーロッパ各国を中心としてさらに合法化が進んでおり、その数は2019年1月時点で「21か国」にのぼっています(徐淑子前掲論文)。
しかしながら、日本においては、上でみたとおり、大麻を嗜好品として使用することはもちろん、医療のために使用することも禁止されています(大麻取締法4条2号及び3号)」

 

医療に使えるものなの?

櫻町弁護士:「大麻の医療使用については、末期がん患者が治療のためにみずから大麻を栽培、使用したために大麻取締法違反に問われた、という事案があります。

この患者は、裁判で「「全ての医師から見放された中、大麻ががんに効果がある可能性を知り、治療のために自ら栽培し使用したところ症状が劇的に改善した。憲法で保障された生存権の行使だ」と無罪を主張」(産経新聞2016年4月24日付記事 https://www.sankei.com/premium/news/160423/prm1604230016-n1.html)し、判決の行方がどうなるかが注目されましたが、残念ながら裁判途中でお亡くなりになったため、判断はなされませんでした。

ちなみに、オロナミンCやポカリスエットなどでお馴染みの大塚製薬は、米国において「サティベックス」(※)の独占的な開発・販売権を取得しています(2007年2月14日付ニュースリリース https://www.otsuka.co.jp/company/newsreleases/2007/20070214_01.html)。

※サティベックスとは、イギリスの製薬会社(GWファーマシューティカルズ)が開発した、大麻草由来の成分を含んだ医薬品であり、2005年カナダにおいて、多発性硬化症(中枢神経(脳、脊髄、視神経)が侵される難病)に伴う痛みを緩和する薬として承認されました。

大麻の使用による健康等の影響については、世界保健機関(WHO)が1997年に「大麻:
健康上の観点と研究課題」(https://www.mhlw.go.jp/bunya/iyakuhin/yakubuturanyou/dl/kokusaikikan01.pdf)を纏めており、その45頁では、以下のような記載がされています。

「大麻使用の急性の健康影響
大麻使用の急性効果は長年認識されているが、最近の研究は、以前の調査結果を確認し、進展させた。 これらは次のように要約されるであろう。
・大麻は関連するプロセスを含め、認知発達(学習の能力)を障害する。学習と回想の両方の期間で大麻が使用されるとき、以前学習した項目の自由な回想はしばしば損なわれる
・大麻は、幅広い種類の作業(自動車運転など)、注意の分配、及び多くのタイプの作業課題における運動神経を損なう。複雑な機械に関わる人間のパフォーマンスは、大麻に含まれるわずか 20mg の THC の吸引後、24 時間にわたって損なわれる可能性がある。大麻に酔って運転する人々の中には自動車事故のリスクが増加する。

大麻使用の慢性的な健康影響
大麻の慢性使用は以下を含む追加的な健康被害を引き起こす
・注意と記憶のプロセスに関する様々なメカニズムで、複雑な情報の組織化と統合を含む認知機能の選択的障害
・長期間の使用は、より大きな障害につながる恐れがあり、使用を中止しても回復しないかもしれず、日常生活機能に影響を及ぼすかもしれない
・大麻の制御不能で過剰な使用に特徴付けられる大麻依存症の進展は、恐らく慢性の使用者中に存在するであろう
・大麻の使用は統合失調症患者の病状を悪化させるかもしれない
・気管と主要な気管支の上皮の損傷は長期の大麻喫煙で引き起こされる
・気道の損傷、肺の炎症、および長期の間の持続的な大麻の消費からの悪影響に対する肺の防御力の低下
・重度の大麻使用は、禁煙群と比べてより高い慢性気管支炎の兆候の蔓延とより高い急性気管支炎の発生に関係している
・大麻使用は妊娠中に胎児の発育における出生時の体重減少に通じる障害に関連している。
・より多くの研究がこの領域で必要だが、妊娠中の大麻使用は出生後のまれな形態のがんの危険性につながるかもしれない。

開発途上国における大麻使用の健康影響の結果は、限定的な非体系的調査のため、大部分が未知であるが、これらの地域の住民の個人への生物学的影響が、先進国で観測されたのと実質的に異なると予測する理論的根拠はない。しかし、他の結果は国の文化的、社会的な違いによって異なるかもしれない」

大麻使用による健康等への影響が上記のようなものであるとすれば、大麻使用を合法化するとしても、医療用に限定した上で、厳格な要件のもとに認めるという方向が妥当なのではないかと思われるところです」

 

まとめ

今後医療使用について合法化される可能性はゼロではないようですが、現在は認められていません。使用しないようにしてください。

 

*取材協力弁護士:櫻町直樹(パロス法律事務所。弁護士として仕事をしていく上でのモットーとしているのは、英国の経済学者アルフレッド・マーシャルが語った、「冷静な思考力(頭脳)を持ち、しかし温かい心を兼ね備えて(cool heads but warm hearts)」です。)

*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています

櫻町 直樹 さくらまちなおき

パロス法律事務所

〒150-0011 東京都渋谷区東3-25-3ライオンズプラザ恵比寿711

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