物議を醸す「無期懲役と死刑の判断基準」と仮釈放 弁護士が詳細を解説

2019年12月、熊谷6人殺害事件の裁判で、1審の裁判員裁判で死刑判決が出たものの、控訴審で無期懲役に覆り、物議を醸しました。

また、2018年に新幹線内で男性1人を殺害し、女性2人を負傷させた被告も無期懲役となり、刑務所に一生入りたかったと法廷で万歳三唱するという不可解な事案も発生し、「なぜ死刑にしないのか」と怒りの声が上がっています。

この「無期懲役」ですが、一節には「一定の刑期を終えると仮釈放になる」という説がネットからは聞こえてきます。本当なのでしょうか? パロス法律事務所の櫻町直樹弁護士に無期懲役について解説していただきます。

 

死刑と無期懲役を判断するポイントは?

櫻町弁護士:「殺人や強盗致死、(現住建造物等)放火など、一定の重罪については、法定刑として「死刑」が規定されています。刑法199条:人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。

もっとも、これらの犯罪を行った者に対し、常に死刑が科されるという訳ではありません。最高裁は、以下のとおり「死刑を選択することもやむを得ない場合」について示しています。

・最高裁昭和58年7月8日判決(刑集 37巻6号609頁・判タ 506号73頁。いわゆる「永山事件」)
本件は、

「犯行時一九歳余の少年であった被告人が米軍基地内でけん銃を窃取し、これを使用して、東京及び京都では勤務中の警備員を射殺し、函館及び名古屋ではタクシー強盗を働いてタクシー運転手を射殺し、何ら落度のない四人の社会人の生命をわずか一か月足らずの間に次々と奪ったうえ、再び立ち戻った東京では学校内に侵入して金品を物色中警備員に発見され逮捕を免れるため右警備員を狙撃したが命中せず殺人の目的を遂げなかった」

という事案です。

最高裁は、

「死刑制度を存置する現行法制の下では、犯行の罪質、動機、態様ことに殺害の手段方法の執拗性・残虐性、結果の重大性ことに殺害された被害者の数、遺族の被害感情、社会的影響、犯人の年齢、前科、犯行後の情状等各般の情状を併せ考察したとき、その罪責が誠に重大であって、罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむをえないと認められる場合には、死刑の選択も許されるものといわなければならない」との基準を示した上で、「被告人の罪責は誠に重大であって、原判決が被告人に有利な事情として指摘する点を考慮に入れても、いまだ被告人を死刑に処するのが重きに失するとした原判断に十分な理由があるとは認められない。

そうすると、第一審の死刑判決を破棄して被告人を無期懲役に処した原判決は、量刑の前提となる事実の個別的な認定及びその総合的な評価を誤り、甚だしく刑の量定を誤ったものであって、これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認めざるをえない。」として、無期懲役を言い渡した控訴審判決を破棄、高等裁判所へ差戻しとしました。

そして、差戻し後の控訴審判決では、死刑を言い渡した一審判決が妥当として死刑が維持され、これを不当とした被告人側が最高裁に上告しましたが、1990(平成2)年4月17日、上告棄却の判決がなされ、被告人に対する死刑判決が確定しました(1997(平成9)年8月1日に死刑執行)」

 

仮釈放が本当にあるの?

櫻町弁護士:「刑法28条は、「懲役又は禁錮に処せられた者に改悛の状があるときは、有期刑についてはその刑期の3分の1を、無期刑については10年を経過した後、行政官庁の処分によって仮に釈放することができる。」と規定していますので、無期懲役が言い渡された場合でも、10年を経過した後は、出所できる可能性があります。

もっとも、法務省「無期刑及び仮釈放制度の概要について」(http://www.moj.go.jp/content/000057317.pdf)をみると、仮釈放について以下のとおり説明がされており、10年が経過したからといって無条件に出所が認められる訳ではありません。

「 (1) 仮釈放を許すか否かの判断機関仮釈放を許すか否かを判断するのは、全国8か所にある地方更生保護委員会(以下「地方委員会」という。)であり、刑事施設の長からの申出又は自らの判断に基づいて審理を開始し(更生保護法第34条第1項、第35条第1項)、地方委員会の委員が直接受刑者と面接するほか(同法第37条第1項)、必要に応じて被害者やその遺族、検察官等にも意見を聞くなどした上で(同法第38条第1項、犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する規則(以下「社会内処遇規則」という。)第22条、第10条)、3人の委員の合議により(同法第23条第1項)、個々の受刑者について(2)の基準に該当するかどうかを判断しています」

「(2) 仮釈放の判断基準
ア 法律上の規定
刑法第28条によれば、このような無期刑受刑者について仮釈放が許されるためには、刑の執行開始後10年が経過することと、当該受刑者に「改悛の状」があることの2つの要件を満たすことが必要とされています。

イ 省令上の規定
どのような場合に「改悛の状」があると言えるのかについては、社会内処遇規則第28条に基準があり、具体的には、「(仮釈放を許す処分は、)悔悟の情及び改善更生の意欲があり、再び犯罪をするおそれがなく、かつ、保護観察に付することが改善更生のために相当であると認めるときにするものとする。ただし、社会の感情がこれを是認すると認められないときは、この限りでない。」と定められています。

ウ さらに詳細な規定
「悔悟の情」や「改善更生の意欲」、「再び犯罪をするおそれ」、「保護観察に付することが改善更生のために相当」、「社会の感情」については、それぞれ、次のような事項を考慮して判断すべき旨が通達により定められています。 例えば、「悔悟の情」については、受刑者自身の発言や文章のみで判断しないこととされており、「改善更生の意欲」については、被害者等に対する慰謝の措置の有無やその内容、その措置の計画や準備の有無、刑事施設における処遇への取組の状況、反則行為等の有無や内容、その他の刑事施設での生活態度、釈放後の生活の計画の有無や内容などから判断することとされています。

また、「再び犯罪をするおそれ」は、性格や年齢、犯罪の罪質や動機、態様、社会に与えた影響、釈放後の生活環境などから判断することとされ、「保護観察に付することが改善更生のために相当」については、悔悟の情及び改善更生の意欲があり、再び犯罪をするおそれがないと認められる者について、総合的かつ最終的に相当であるかどうかを判断することとされています。そして、「社会の感情」については、被害者等の感情、収容期間、検察官等から表明されている意見などから、判断することとされています」

以上のとおり、仮釈放が認められるには一定の要件・基準を満たす必要があります。そして、法務省「無期刑の執行状況及び無期刑受刑者に係る仮釈放の運用状況について(http://www.moj.go.jp/content/001274998.pdf)によれば、平成30年における「年末在所無期刑者数」は1789人となっているところ、「無期刑仮釈放者数」は10人となっています。

また、平成21年から平成30年における無期刑者数、仮釈放者数の推移をみてみると、以下のとおりとなっています。

                                 引用:無期刑の執行状況|法務省HP

この表によれば、刑務所内で死亡する無期刑の受刑者もおり、受刑者の平均在所期間は30年を超えていますから、法律上は、10年を経過した時点で出所できる可能性があるとはいっても、実際にはもっと長期間、刑務所に収監されていることが通常、といえるでしょう」

 

仮釈放が認められるのはごく少数

仮釈放が認められる場合もあるようですが、かなり厳しい基準を満たす必要があります。決して「仮釈放が簡単にできる」わけではありません。

 

*取材協力弁護士:櫻町直樹(パロス法律事務所。弁護士として仕事をしていく上でのモットーとしているのは、英国の経済学者アルフレッド・マーシャルが語った、「冷静な思考力(頭脳)を持ち、しかし温かい心を兼ね備えて(cool heads but warm hearts)」です。)

*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています

櫻町 直樹 さくらまちなおき

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