昨今横領事件が多発しています。2020年1月には労働組合で会計を担当していた60代の女が、年金用に積立られていた金を横領。高級車や競走馬の購入に充てていたことが判明し、世間の怒りを買いました。
この女は10年間で10億円ほど横領していたようですが、警察は7年前からの横領分約6億円程度しか罪に問えないといいます。本当なのでしょうか? 真相やその理由について、法律事務所あすかの冨本和男弁護士に質問してみました。
横領は7年しか罪に問えないの?
冨本弁護士:「横領は過去7年しか罪に問えないのは本当です。業務上横領の公訴時効の期間が「7年」だからです。公訴時効は、犯罪行為から一定期間経過した場合の起訴を許さないとする制度です。こうした公訴時効の制度は、時間が経過すると証拠を集めにくくなって裁判が困難になるだろう、時間が経過したことによって刑罰を加える必要性が低下するだろう、といった考え方が元になっています」
少々納得がいかないような気もしますが、公訴時効の期間が7年のため、それ以前の行為については、罪に問うことができないようです。もちろん「やったもの勝ち」というわけではありませんが、覚えておく必要はありそうですね。
返済義務は発生する?
1月に逮捕された女のように、莫大な金額を横領していた場合、自身で返済するのはかなり難しいようにも思えます。しかし、横領された側としては、当然金を返してもらいたいと考えることでしょう。横領した犯罪者に金を返済する義務は発生するのでしょうか?
冨本弁護士「横領した容疑者は、その金を返還する義務を負います。横領は不法行為ですので、横領した人は、会社に生じた損害を賠償する義務を負います。不法行為とは、わざと、あるいは、うっかり他人の法律上保護される利益を侵害することです。不法行為を行った者(加害者)に、被害者に生じた損害を賠償させるのが公平だからです」
横領は重罪
横領は会社や他人の金を懐に入れ私腹を肥やすもので、到底許されるものではありません。1月に逮捕された女のように、6億近い金を横領したとなれば、事実上返済は困難ですが、それでも返す義務があるため、返していく必要があります。
このような事件を防ぐためには、経理担当者の複数人化や抜き打ちでの業務チェック、弁護士などを交えた監視チームの設置などの対策が有効です。会社の経営者は売上や積立金などを守る義務があります。性善説を採用せず、しっかりとした対策を取りましょう。
*取材協力弁護士:冨本和男(法律事務所あすか。企業法務、債務整理、刑事弁護を主に扱っている。親身かつ熱意にあふれた刑事弁護活動がモットー)
*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています)