パートと正社員では待遇にかなりの差があります。通常、社員がパートを管理しながら仕事を進めていくものですが、正社員が新人の場合、仕事を熟知するパートが仕事を教えることもありますよね。
そんなパートの女性Aさんから、ある相談が寄せられました。
パートのAさんから相談が
Aさん「私はある温浴施設で働いています。オープンからスタッフとして参加する古株なので、オペレーションを熟知しており、新人に仕事を教えることも多くなりました。そんな折、店長から『新しく入ってきた若い社員に仕事を教えてほしい』といわれ、指導しているのですが納得がいかないんです。
社員に仕事を教えるのは店長か正社員待遇の人間のはず。それを私がやるなら、その分地位なり賃金なりを上げるべきだと思う。しかし、店長はそれには応じてくれません。そんなのってアリなのでしょうか?」
正社員に仕事を教えているのに、賃金据え置きが許せないというAさん。店長の措置に問題はないのでしょうか?琥珀法律事務所の川浪芳聖弁護士に見解を伺いました。
パートタイム労働法について
川浪弁護士:「パート社員とは、1週間の所定労働時間が正社員の1週間の所定労働時間に比べて短い労働者(短時間労働者)のことをいいます。
パート社員については、「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(以下「パートタイム労働法」といいます)という法律が定められており、同法第8条は、パート社員と正社員の待遇の相違は、職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲、その他の事情を考慮して不合理と認められるものであってはならないと規定し、同法第9条は、職務の内容及び配置が通常の労働者と同一の範囲で変更が見込まれるパート社員(通常の労働者と同視すべき短時間労働者)については短時間労働者であることを理由に賃金の決定その他の待遇について差別的取り扱いをしてはならないと定めています。
上記の第8条及び第9条は、要するに、賃金については、職務内容、職務内容及び配置の変更の範囲、その他の事情の客観的・具体的な実態に照らして定めることを要求しており、パートタイム労働者であるという抽象的な理由だけで賃金を正社員よりも低く設定することを禁止しているものといえます。具体的には、正社員とパート社員の担当業務が同じであり、かつ、担当業務の変更の範囲及び配置転換の範囲が同じである場合には、賃金について差を設けることは許されないことになります(ただし、正社員かパート社員かを問わず、勤続年数や経験、能力に応じて差を設けることは許されます)」
本事例について
川浪弁護士:「本事例においては、パート社員の女性が自分より給与の高い正社員に仕事を教えているが、その対価をもらっていないことに不満があり、賃上げを請求したいとの希望を抱いていますが、当該女性パート社員と正社員の担当業務や業務の変更及び配置転換の範囲等が同一でない限り、不合理な賃金格差とは言えませんので、女性パート社員の賃金が教えられる側の正社員の賃金より低かったとしても、賃上げ請求は認められず、会社は賃上げに応じる必要はありません。
なお、仕事を教える人間と教えられる人間について、一般論として、仕事を教える側の方が、経験や知識を要求されることになりますが、そのことだけで当然に「賃金に差を設けなければならない」とまではいえません。既述のとおり、賃金は、知識や経験(勤続年数)等の事情のみならず、担当業務の内容,負担する責任,配置転換・転勤の可否等の事情も踏まえて決定されるものだからです」
法改正
川浪弁護士:「2020年4月1日からパートタイム労働法を改正した「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(パートタイム・有期雇用労働法)が施行される予定であり(ただし、中小企業については2021年4月1日より適用)、パート社員のみならず有期雇用労働者についても、正社員との間の不合理な待遇格差が禁止されることが規定されました。
さらに、これまでは、いかなる待遇差が不合理なもので、いかなる待遇差が不合理なものでないのかという基準が不明確であったことを踏まえ、「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」(同一労働同一賃金ガイドライン)が新たに策定され、同ガイドラインも上記のパートタイム・有期雇用労働法に合わせて2020年4月1日から適用されることとなります。
2020年4月1日以降は、パートタイム・有期雇用労働法及び同一労働同一賃金ガイドラインに沿って、不合理な待遇格差か否かが判断されることとなりますので、会社(使用者)はこれらの法律・ガイドラインをしっかり確認しておくことが望ましいといえます」
Aさの主張は、残念ながら認められないようですね。
*取材協力弁護士: 川浪芳聖(琥珀法律事務所。些細なことでも気兼ねなく相談できる法律事務所、相談しやすい弁護士を目指しています。)
*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています)