「体調不良」を理由に早退や欠勤を繰り返す社員 左遷や退職を迫ることができる?

都内の会社で管理職を務めるAさんは、ある社員の行動に頭を悩ませています。それは、「体調不良」と称する早退や欠勤が多いこと。仕事を任せても「体調が悪い」と投げ出してしまうため期限に間に合うことができず、他の社員がフォローしています。

そのため現在は簡単な業務しか任せることができず、左遷や退職させることを考えていますが、体調不良を理由としているだけに、「人事権の濫用になるのではないか」と不安になっているそうです。

実際、このような場合社員を左遷や降格、そして退職させても問題ないのでしょうか? その場合どのような手続きが必要になるのか。琥珀法律事務所の川浪芳聖弁護士に見解を伺いました。

 

左遷・降格させることは可能?

川浪弁護士:「左遷とは「低い地位・官職に落とすこと」ですが、一般的に、降格や配転(職務内容や勤務場所の変更)の意味で理解されていると思います。このうち、配転(配置転換)については、職務内容や勤務地が労働契約・就業規則で限定されていない限り、会社に幅広い裁量が認められているといえます。そのため、不当な目的等があって権利の濫用にあたると判断されない限り、会社が社員に配転を命じることは可能です。

次に、降格については、人事権の行使としてのものと懲戒処分としてのものに大きく区別されますが、実際に体調不良で早退・欠勤をしているのであるならば,企業秩序に違反する行動とはいえませんので、懲戒処分として降格させることは原則として許されず、人事権の行使としての降格の可否を検討することになります(体調不良の事実がないのに嘘をついて早退や欠勤を繰り返していた場合には、懲戒処分として降格させることも労働契約法15条の要件を満たす限りで可能になります)」

 

降格には根拠が必要

川浪弁護士:「人事権の行使としての降格は、①役職を低下させるに過ぎないものと②職能資格や資格等級を低下させるもの(資格・等級と直結している基本給の減給を伴うもの)に区別されます。①については、職務適正の欠如や成績不良など業務上の必要性があれば、法律上禁止された差別・不利益取扱いの禁止や権利の濫用にあたらない限り、会社の裁量で行うことが可能ですが、②については、基本給の減給という大きな不利益を社員に与えるものですので、就業規則や労働契約上の特別の根拠も必要となります。

本件のケースでは、体調不良による早退や欠勤を繰り返していることで、実際に業務遂行に支障が生じており、業務を任せることもできない状況にあることから、より軽度な業務への配転は許されると思います。また、早退・遅刻を繰り返す社員に一定の役職(課長・主任など)についている場合には、当該役職に基づく職責を果たせない以上、役職を低下させる降格も許されると思います。他方で、職能資格や資格等級を低下させる降格については慎重な対応が求められるところです」

 

退職は可能か?

川浪弁護士:「社員に対して、自主退職するように求める「退職勧奨」は原則として自由に行うことができます。しかし、社員が退職には応じないと明確に意思表明しているにもかかわらず、執拗に退職するように迫ることは「退職勧奨」ではなく「退職強要」といえますので、許されません(退職強要の態様次第では不法行為に該当し、会社に慰謝料を支払う義務が発生する場合があります)。

このように、社員が退職勧奨に応じない場合でも社員を退職させるには、解雇するほかありません。しかし、解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、解雇権を濫用したものとして無効となります(労働契約法16条)。

そして、この判断は厳格になされますので、本件のように、従業員が欠勤・早退という勤怠不良を繰り返していたとしても、それが体調不良というやむを得ない理由に基づく場合には、業務遂行が困難になる等の特段の事情がない限り、解雇は認められない(無効と判断される)可能性が高いといえます。

他方で、実際には体調不良ではないのに(早退した後にどこかに遊びに行っていた等の事実が認められた場合など)嘘をついて早退や欠勤を頻繁に繰り返していた場合には、会社と社員の間の信頼関係は著しく損なわれますので、虚偽の理由による早退・欠勤の頻度が顕著な場合には解雇は認められるでしょう」

 

手続きはどのようなものが?

川浪弁護士:「体調不良を理由に欠勤・早退を繰り返すことについて、医師の診断書を求める等して、体調不良が事実かどうかを確認することが最低限必要であると思われます。会社が指定する医師の診察を受けてもらうことも検討してよいでしょう。

その上で、欠勤・早退の程度によっては任せることができない業務がありますので、そのことを面談の場で社員に伝えた上で、配転や降格(役職の低下)をしてより負担のない業務を割り当てることを検討すべきと考えます。場合によっては、短時間労働や所定労働日数の削減を提案することも有用であると考えます(ただし、労働日数・労働時間の変更は労働条件の変更にほかならず、給与の減額を伴いますので、社員の同意を得ることが必要です)。

しかし、配転・降格によって担当業務を変更しても体調不良が続き、業務遂行に耐えられないと判断した場合には、一定期間休職させることや退職を勧奨することを検討することになります。そして、社員が退職勧奨に応じることを拒否し、かつ、その勤怠状況に改善が見られない場合には、解雇を検討することになります。

ただし、解雇は容易には認められませんので、あくまで最後の方法であるということを念頭におかなければなりません。解雇する前に、社員に対して注意指導を複数回行って改善の機会を付与しておくことが望ましいといえます」

 

慎重な対応が必要

体調不良は致し方ない部分もありますが、会社として職責を全うできない場合は降格や左遷させることはできるようです。

ただしこの場合でも措置が適正であるかどうか、慎重に判断する必要があります。判断する前に、知識を持つ弁護士に相談することをおすすめします。

 

*取材協力弁護士: 川浪芳聖(琥珀法律事務所。些細なことでも気兼ねなく相談できる法律事務所、相談しやすい弁護士を目指しています)

*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています)

川浪 芳聖 かわなみよしのり

琥珀法律事務所

東京都渋谷区恵比寿1-22-20 恵比寿幸和ビル8階

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