昨今「働き方改革」が進められ、会社に出勤することなく自宅でネット回線などを利用してする「リモートワーク」を行う人が増えつつあると聞きます。
会社側としては、「職場に出向いてこないため意思の疎通が図りにくい」などのデメリットを理由に認めていない企業が多いのが現状です。
しかし、能力を持っている社員が鬱病など身体的な理由で出勤することが難しいなどの理由で、特例として認める場合もあります。
リモートワークを申し出たBさん
都内のIT会社に勤務するBさんも、リモートワークで働きたいと考えています。当初会社は出勤しての勤務を義務付けていました。
ところが開発の主力として活躍していた社員が広場恐怖症という公共交通機関に乗れなくなる病気になってしまい、リモートワークを申し出たところ、会社が認めたのだといいます。
「それならば」と、Bさんも「満員電車に乗るのが苦痛。リモートワークが認められるのなら、自分もそうさせてほしい」と会社に掛け合います。しかし、会社の答えは「NO」。Bさんは、了承したものの、納得の行かない物を感じているそうです。
1人のリモートワークを認めるなら、他の社員も認めるべきだと考えているBさん。会社の措置に問題はないのでしょうか? 法律事務所あすかの冨本和男弁護士に質問してみました。
弁護士の見解は?
冨本弁護士:「会社から離れて自宅等で仕事をする働き方をリモートワークとかテレワークと言うそうですが、リモートワークを認めることによって支障があるようであれば認める必要はありません。
労働基準法が「労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない」と定めていますが(同法15条)、ここでいう「その他の労働条件」には「就業の場所」も含まれます(労働基準法施行規則第5条1項1号の3)。
したがって、リモートワークを認める場合、「就業の場所」として従業員の自宅を明示する必要があります。また、リモートワークでも労働時間の把握が必要です。(労働者の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準・平成13.4.6基発第339号)
また、業績評価・人事管理について会社に出社する労働者と異なる制度を用いるのであれば就業規則の変更が必要となることがあります(労働基準法89条2号)。使用者には勤務場所を決定する権利もありますので、認める必要がないのであれば、申し出を断ることができると考えます」
話し合いが必要
リモートワークは新しい働き方で、認めている会社も多くなっているようですが、使用者には勤務場所を決定する権利も有しているため、他人が許されたからと言って「自分も」というわけにはいかないようです。社員と会社がしっかりと話し合って決めていく必要がありそうですね。
*取材協力弁護士:冨本和男(法律事務所あすか。企業法務、債務整理、刑事弁護を主に扱っている。親身かつ熱意にあふれた刑事弁護活動がモットー)
*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています)