都内に勤務するIさん(20代・女性)は、会社を辞めることができず困っています。
転職先を決め、いざ上司にその旨を伝えるとしつこく引き止められ、退職届を受理してもらえません。
何度打診しても「もうちょっと頑張ろうよ」「そんなこといわないでうちで働いてよ」と言って辞めることを許さない上司。
転職先からは「早く入社日を決めてほしい」と急かされており、困り果てています。
退職の意思を示す社員を「認めない」として強く引き止める行為。違法ではないのでしょうか?
琥珀法律事務所の川浪芳聖弁護士に見解を伺いました。
引き止めは違法?
川浪弁護士:「会社が退職を希望する労働者を引き止める行為自体は、原則として違法ではありません。
しかし、引き止め行為の態様次第では例外的に違法と判断されて、会社が労働者に損害賠償責任を負う可能性があります。
引き止めるにあたって脅迫的な言動を用いたり、暴力を振るったり、労働者の人格を否定するような暴言を用いたりした場合がその典型例です」
基本的には合法ですが、態様によっては違法となることもあるようです。
弁護士に仲介してもらうことは可能?
合法とはいうものの、しつこく引き止められるのは困ってしまいます。
昨今は「退職代行サービス」なるものも出ているそうですが、少々心配なのも事実でしょう。
そんなとき、弁護士に入ってもらうことはできないのでしょうか?
また、対応を一任することでどのようなメリットがあるのかも気になります。
琥珀法律事務所の川浪芳聖弁護士にお聞きました。
川浪弁護士:「人員不足の昨今、会社が労働者を引き止める行為はよく行われているようです。
そして、会社が上述した脅迫的言動や暴言を用いたりした場合に限らず、会社から真摯にお願いされた場合でも、なかなか退職に踏み切れない労働者が一定数存在します。
こういう場合に、退職手続(退職代行)を弁護士に依頼することは可能です。
弁護士に依頼することでスムーズに退職手続が進む可能性があり、労働者は会社による引き留め行為から解放されるというメリットがあると思います。
また、残業代が未払いになっている等の事情があれば、その点についても弁護士が請求・交渉することでまとめて解決に至る可能性もあり、この点も依頼するメリットといえるでしょう」
何もしなくていいというわけではない
川浪弁護士「とはいえ、弁護士に依頼したからといって、一切の引継業務を行わなくてもよくなるというものではありません。
会社は「退職する場合には●カ月前に申し出ること」というようなルールを就業規則や労働契約書で定めていることが多々あります(なお、そのようなルールが定められていなくても、期間の定めのない労働契約の場合には、2週間前の予告が必要との民法の規定が適用されます)。
この場合には、その定めに応じて、退職を申し出てから退職するまでの間に、決められた一定期間勤務し、引継業務を行うことが無難と思います(会社からパワーハラスメント等を受けていたり、うつ病等で勤務が困難である等の特段の事情がある場合には、引継行為を行わずに直ちに退職することも例外的に許されるでしょう。
また、有給休暇を消化して出勤日数を減らすことも可能です)。
会社から「ルールに反して突然退職し、引継業務を行わなかったせいで、会社に損害が生じた」等と主張されて損害賠償を請求され、新たな法的トラブルに発展する可能性があることに注意しなければなりません」
注意事項も
川浪弁護士:「就業規則や労働契約において退職予告期間が2週間よりも長く定められていたとしても、就業規則や労働契約よりも民法の規定が優先し、2週間前に予告すれば足りる」との見解もありますが、解釈に争いのあるところですので、紛争防止の観点からは、就業規則や労働契約による定めを前提に退職予告をした方が無難と考えます」
就業規則に則った退職の意思通知を行い、それでもしつこく引き止められる場合は弁護士に相談してみましょう。
*取材協力弁護士: 川浪芳聖(琥珀法律事務所。些細なことでも気兼ねなく相談できる法律事務所、相談しやすい弁護士を目指しています。)
*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています)