会社都合を条件に退職したのに届いた離職票に「自己都合」故意なら罰せられる?

7月は人事異動が多い時期。なかには退職勧奨をされたという人もいるのではないでしょうか。

「会社から要らない」と言われるわけですから、少なからずショックを受けていることと思います。

 

退職勧奨を受けたBさん

都内の会社に勤務していたBさん(30代・男性)もその1人。10年勤務した会社の人事担当者から突然呼び出され、「辞めてもらえないか」と肩を叩かれてしまいます。

Bさんは辞めたくはありませんでしたが、人事から「君は能力が低い」「会社に必要ない」といわれ憤慨。

失業保険の給付期間が長い「自己都合」ではなく、「会社都合」なら、受け入れることを告げました。

 

離職票が誤っていた

数週間後、会社から届いた離職票を見て、Bさんは怒りを覚えます。退職理由が「自己都合」になっていたからです。

故意なのか、それとも間違いなのか。

Bさんはまだ会社に連絡を入れていませんが、まずこのような行為が法的に認められるのか、そして撤回にするにはどうしたらいいのか。

撤回に応じない場合どうすればいいのかなど、不安を覚えているそうです。

この後Bさんはどのような対応を取ればいいのか。琥珀法律事務所の川浪芳聖弁護士に見解を伺いました。

 

どうすればいいのか?

川浪弁護士:「まずは会社に対して、離職票の記載の訂正を求めることが端的ですが、会社が応じないことも多々あります。

というのも、退職勧奨を受けて退職をした場合は「会社都合(事業主都合)による退職」に該当しますが、会社側としては、離職票に会社都合と記載することで各種助成金を受けられなくなる(返還しなければならなくなる)等のデメリットがあるため、同デメリットを避けるべく、あえて離職票に「自己都合による退職」と記載しているからです。

このような場合には、ハローワークにおいて、離職票を提出する際に、離職票の「⑯離職者本人の判断(○で囲むこと)」の欄の「事業主が○を付けた離職理由に異議 有り 無し」の「有り」に○印をつけて異議申し立てを行うことになります。

この場合、自己都合による退職ではなく会社都合による退職であることを裏付ける証拠(退職証明書や退職勧奨についてのやりとりがなされたメール等)を一緒に提出すると変更が認められやすいといえます」

 

故意に書き換えられていた場合罪になる?

離職票の内容を改ざんされ送られることは、当然気分の良いものではありません。故意ならなおさらです。

このような行為に法的なペナルティを与えることはできないのでしょうか?

琥珀法律事務所の川浪芳聖弁護士に見解を伺いました。

川浪弁護士:「会社が意図的に離職票に虚偽記載を行った場合には、「6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金」に処せられる可能性があります(雇用保険法7条、83条)。

また、「会社都合による退職」であるのに、会社の故意・過失によって離職票に「自己都合による退職」と記載され、その結果、労働者が不利益を被った場合には、会社に対して不法行為に基づく損害賠償請求をする余地があります。

この点に関して、大阪地裁平成19年6月15日判決(ゴムノイナキ事件)が

「このような被告の退職は、会社都合退職にあたるというべきである。 そうすると、原告から退職強要を受けたとの被告の主張は採用の限りでないが、会社都合退職として処理すべきところを、自己都合によるものとして退職金を計算し、離職票を作成するなどの事務手続きを行ったという限度で、原告には過失があったという他なく、この点で原告の行為は不法行為にあたる」

と判示し、不法行為の成立を認めていることが参考になるでしょう」

 

まとめ

故意に離職票の退職理由を改ざんすることはよほどのことがない限りないと思われますが、仮にそうであった場合は損害賠償請求をする余地があるとのことです。

しっかりと覚えておきましょう。

 

*取材協力弁護士: 川浪芳聖(琥珀法律事務所。些細なことでも気兼ねなく相談できる法律事務所、相談しやすい弁護士を目指しています。)

*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています)

川浪 芳聖 かわなみよしのり

琥珀法律事務所

東京都渋谷区恵比寿1-22-20 恵比寿幸和ビル8階

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