保釈中に逃走しても罪に問われないって本当?詳細を弁護士が解説

先日、神奈川県厚木市内で保釈中だった男が、収監するために訪れた地検職員に対し刃物を振り回し逃走するという事件が発生。

開き直った男が野放しにされることは非常に危険で、地域に不安が走りました。結局男は横須賀市内で身柄を確保され、公務執行妨害で逮捕されています

 

罪に問われないことが発覚

この事件では、男にまんまと逃げられた地検職員と神奈川県警に「弛んでいる」と批判が殺到します。さらに、「収監を逃れるために逃げたこと」について「罪に問われない」ことも発覚し、日本国民を驚かせました。

収監を拒み逃げる行為が罪にならないのならば、今後も同じような事件が発生してしまいそうですが…。なぜ罪に問われないのか、

エジソン法律事務所の大達一賢弁護士に見解を伺いました。

 

なぜなのか弁護士が解説

大達弁護士:「刑法第六章には「逃走の罪」として、各種の逃走に関する罪が定められています。

これらは

①単純逃走(97条)       1年以下の懲役

②加重逃走(98条)       3月以上5年以下の懲役

③被拘禁者奪取(99条)              3月以上5年以下の懲役

④逃走援助(100条)    3年以下の懲役

⑤看守者等による逃走援助(101条)       1年以上10年以下の懲役

の類型があります。

これらはいずれも、①について「裁判の執行により拘禁された既決又は未決の者」、②について「前条に規定する者又は勾引状の執行を受けた者」、③について「法令により拘禁された者を奪取した者」、④について「法令により拘禁された者を看守し又は護送する者」が主体とされており、身柄拘束が行われている者が存在するということが前提です。

これに対し、本件で問題となっている「保釈」とは、起訴された被告人が勾留という身柄拘束を受けている場合に、保釈保証金の納付その他の条件のもとに、その勾留から解放するという手続であるため、保釈中の者は、身柄拘束を受けていない状況にあるといえます。

そのため、逃走の罪における主体にも客体にもならず、逃走の罪は成立し得ません。もっとも、今回問題となった逃走は、包丁で検察事務官らを威嚇するという暴行・脅迫を手段として公務の執行を妨害したことから、公務執行妨害罪として逮捕されています」

 

保釈保証金は没収

大達弁護士:「保釈は、あくまで被告人が訴訟に出頭することを条件として身柄を解放する手続であるため、逃走をした場合には保釈が取り消されるとともに、保釈保証金も没収されることになります。

また、保釈中の被告人をかくまうようなことがあると、かくまった者は犯人隠避罪が成立するとして逮捕される可能性もあります。保釈には、権利として保釈を請求することのできる権利保釈と、権利が認められなくとも裁判所が裁量として認める裁量保釈の2種類があります。

日本の刑事司法は”人質司法”と揶揄されるほどに身柄拘束が頻繁に行われるもので、カルロス・ゴーン被告の保釈の際に注目されたことは記憶に新しいですが、被告人にとっては、これから行われる刑事訴訟の準備をするための貴重な機会です。

今回の被告人はたまたま逃走に及んでしまったものですが、そもそも逃走を許してしまったということ自体の問題点をしっかり突き詰めた上で、保釈制度の適切な運用に支障が生じないようにしてほしいと、弁護士としては切に願うものです」

 

まとめ

今回の事件が保釈制度に少なからず影響を与えたことは間違いありません。保釈のあり方について考えるとともに、関係者にはこのようなことが二度と起きないよう、対策を講じてもらいたいものです。

*取材対応弁護士: 大達 一賢(エジソン法律事務所。第一東京弁護士会所属。「強い、やさしさ。」、「守る≒攻める」、「戦略&リーガル」の3つの思いを胸に、依頼者のために全力を尽くします)

*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています)

大達 一賢 おおたつ かずたか

エジソン法律事務所

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