弁護士に相談する際、必要となるのが費用です。かなり高額なイメージもあるだけに、なかなか「気軽に相談」とも行きづらいものがあるかもしれません。
しかし訴訟などでは、力を借りず話を前に進めることは極めて難しいでしょう。
しかも、完全に相手に非がある場合で無法行為を訴えるならば、
「こちらは悪くないのだから、弁護士費用だって相手に出させたい…!」
と考えるのは、当然のことではないでしょうか。
では、弁護士費用を訴訟相手に請求することは可能なのでしょうか?
エジソン法律事務所の大達一賢弁護士に見解を伺いました。
弁護士費用を相手に請求したい…
大達弁護士:「様々なトラブルに巻き込まれて損害が発生した場合、トラブルの相手に損害賠償を請求することを考えると思います。
その際、弁護士に依頼される方も多いと思いますが、弁護士も業務である以上、どうしても弁護士費用問題は付きまといます。
弁護士としてはそれなりの時間や労力もかけて全力で取り組んではいるのですが、依頼者にとっては安くないお金になるのもまた事実。
しかし、そもそも相手がトラブルを起こさなかったら損害賠償請求をする必要がなく、弁護士費用だって支払わずに済んだはずです。
それなのに、損害賠償を請求する側が弁護士費用を全部負担しなければならないのは、どこかひっかかるのも理解できます。」
損害として認められる範囲がある
大達弁護士:「この点について、まず損害として認められる範囲は、原則としてそのトラブルを引き起こした行為と『相当因果関係』の範囲内にあるものに限られています(民法416条、最判昭和48年6月7日)。
この『相当因果関係』の範囲内というのは、簡単に言うと、「加害者の行為のせいで、通常発生すると言えるものや、特別な事情があって生じたものであっても、加害者が予見し得たもの」のことです。
そして最高裁は、弁護士費用については、事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる範囲内のものに限り、相当因果関係に立つ損害といえると判断しています(最判昭和44年2月27日、最判平成24年2月24日)。
費用について判決が出される場合も
大達弁護士:「したがって、様々な事情を考慮した結果、その事案を弁護士に頼んだ場合、実際にかかった費用のうち
『この費用は通常かかるといえるため、相手に請求すべきだ』
と認められる金額は、損害の範囲に含まれる、といえそうですが、現在の実務では、金額にもよりますが、交通事故などの不法行為に基づく損害賠償事件について認められた損害額の1割程度が弁護士費用として認められるケースにとどまるのが実情です。
この1割というのは、依頼した弁護士に対して支払う報酬額とは関係なく、慣例上定められています。
判決で弁護士費用を請求する場合は?
大達弁護士:「実際に訴訟を起こす際、損害賠償請求をする側は、請求する損害額の1割程度の弁護士費用を加算して請求することが通常です。その上で、裁判所が請求を認める場合には、弁護士費用についても適切な金額を決めたうえで判決が出されることになります。
例えば、相手の過失で自分の車が破損し修理代が100万円、弁護士費用として20万円かかったという場合に、原告としては120万円を相手に請求することになりますが、裁判所が、
『修理代については100万円が損害として認められるが、弁護士費用については10万円が相当だ』
と判断した場合には、
『被告は原告に対し110万円を支払え』といった判決が出されることとなります。
なお、かつては敗訴した側に勝訴した側の弁護士費用も負担させる敗訴者負担制度を作ろうとする動きもありました。
しかし、裁判は必ず勝てる保証があるわけではありません。
同時に、社会的弱者が行政や大企業などを訴えるような場合、勝てなかったときに負担する莫大な弁護士費用を負担することを考えて、訴訟を起こすことに委縮してしまうこともありえます。
そうなれば、裁判の利用が縮小し、本来認められるべき権利が蔑ろにされてしまう危険性があるでしょう。
そのため、結果としてこの制度の導入は見送られました。
ちなみに、訴訟の判決が出される場合、
『訴訟費用は原告(もしくは被告)の負担とする』
といった判決文が出されることが多くあります。
ここでいう訴訟費用は、訴状に貼る印紙や郵便切手代その他の実費をいうものであり、弁護士費用は含まれていません」
依頼予定弁護士と事前協議を
大達弁護士:「補足的な話にはなりますが、弁護士の費用としては一般的に「着手金」と「報酬金」とに分けられることが多いです。
着手金というのは、事件を弁護士に依頼する際に払う費用であり、依頼内容の成功・失敗に関係なく支払うものであって、先払いが原則です。
他方、報酬金は、依頼された内容の成功度合いに応じて発生することが通常です。
その他、M&Aや契約書作成、リーガルチェック、法務監査業務、会社法務など、紛争になじまない類型や、訴額が少額であり、着手金報酬金制になじまない場合には、時間制報酬制度を導入することもあります。
自身の依頼する事件の報酬体系がどのようになっているかは、依頼する弁護士とよく協議をし、説明を受けて理解するようにしましょう」
弁護士に相談する前に、費用についてしっかり話を聞き、協議することが重要と言えそうですね。
*執筆・法律監修: 大達 一賢(エジソン法律事務所。第一東京弁護士会所属。「強い、やさしさ。」、「守る≒攻める」、「戦略&リーガル」の3つの思いを胸に、依頼者のために全力を尽くします)
*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています)