20代女性のMさん(仮名)。
会社の男性・女性双方からの「集団セクハラ」を受け、憤りを覚えています。
悪質な集団セクハラ
会社の新人歓迎会で、Mさんはお局女性から「部長の隣に座るように」と指示を受けます。違和感を覚えつつも言うとおりにすると、「社員のなかで誰がタイプ?」などと聞かれ、女性は「部長と言いなさい」と焚き付けたそうです。
更に周りの社員からは「そんなに好きならハグしたらどうか」と提案が。そして会の帰り、上司はいかにもスケベそうな顔をして、嬉しそうに抱きついてきたそう。
Mさんは「お局のご機嫌取りに自分が使われた」と感じ大変に嫌な思いをしたとのことです。
周りに流されてしまったことを悔いているMさん。しかし、お局女性や焚き付けた社員。そしてエロ上司に憤りを隠せず、訴えたいと考えています。実際のところ、訴えることは可能なのでしょうか?
星野・長塚・木川法律事務所の木川雅博弁護士に見解を伺いました。
訴えることは可能なのか?
4月に入り、交通機関を利用すると見た目や会話の内容から新入社員だと思われる方々を見ることが多くなってきました。
最近は会社全体や部署で歓送迎会を行う企業もこのご時世にあからさまなセクハラを行う上司も減ってきてはいるでしょうが、なかには、上記Mさんのようにセクハラを受けたというような相談もあります。
今回は、このようなケースで慰謝料を請求することが可能か。
①抱きついた上司
②上司の隣に座らせたりセクハラ質問への回答を強要したりしたお局社員
③「ハグをしろ」などとはやし立てた別の社員たち
④その他
に対して、それぞれ請求することができるかどうか回答したいと思います。
①抱きついた上司への慰謝料請求
まず慰謝料を請求する相手としては実際に抱きついた上司が考えられますし、もちろん上司に対しては請求することが可能です。
では、どのように請求するかというと、上司個人の行ったことですから、会社を通しても、会社に報告せず社外で請求することもできます。
ただし、上記の事情だけでは、おそらく抱きつかれたのは1回で、抱きつかれた時間や・触れられた場所が不明ですので、ほかに特別な事情がない限り、認められるのは低額な慰謝料額となってしまいます。
このまま勤務を継続する意向があるようでしたら、会社のコンプライアンス窓口や人事課等を通して相談したほうが、迅速に意向に沿った対応をしてもらえる可能性があります。
②お局社員への慰謝料請求
お局社員に対しては、「抱きついた上司は酒席でいつも女性社員に抱きついており、今回も隣に新入社員を座らせた場合は確実に抱きつくだろう」とお局は考えていたが、それを承知で隣に座らせたという関係などが立証できない限り、セクハラの慰謝料を請求することはできません。
また、酔うと抱きつく癖がある上司の隣に座ってお酌をさせたり、抱きつかれても我慢しろと座らせていたりした場合は、お局がしたことはパワハラに当たる可能性はあります。
ただ、やはりお局が上司の癖を知っていた上でわざと新入社員に強要したのでなければ、やはりこの1回でパワハラと認定され、慰謝料を取ることもできないといえます。
なお、「社員のなかで誰がタイプ?」という質問に対して「部長と言いなさい」と指示したことも、その1回の指示のみではパワハラに当たるとはいえません。
上司やお局の社内での噂を集め、上司と一緒になってセクハラを強要したりパワハラを行ったりするお局かどうかを確認し、その後、やはりコンプライアンス窓口や人事課などに相談することになると思います。
③「ハグをしろ」などとはやし立てた別の社員たちへの慰謝料請求
その場にいてはやし立てた別の社員に対する請求はほぼできないといえます。
上記②のお局に対する請求でも当てはまりますが、抱きついたのは上司1人ですので、他の社員に請求するためにはセクハラではなく、「強要したりはやし立てたりした行為がパワハラに当たるか」という観点からの判断になります。
そうすると、「1回はやし立てた行為がパワハラに当たるのか」という問題があり、上記事情のみではパワハラには該当しないと考えます。
④その他慰謝料などの請求相手
今回のケースでは、上司のほかは、その場で強要したりはやし立てたりした社員たちに対してではなく、会社に対して慰謝料などを求めることを検討することになるでしょう。
会社や部署全体の歓迎会であれば業務中のセクハラと考えられますので、上司の責任が認められれば会社も損害賠償義務を負う関係にあるということができます。
ただ、上記①の上司に対する請求同様、慰謝料や損害賠償の額は低額ですので、どうしても退職したいということでなければ、会社に問題意識を持ってもらい、今後の再発を防止させること(同時に昇進や配置転換において何らの不利益を受けないこと)を目指して相談したほうがベターかもしれません。
「昔はそんなことで何も言われなかった」などと言って、セクハラもパワハラも失言も繰り返す上司はまだ残っているのでしょうね。
入社してみないと職場環境や人間関係はわからないとはいえ、どうしても許容しがたい場合は複数回行為が繰り返された記録を取っておき、会社の相談窓口、労働基準監督署、弁護士などに記録と共に相談履歴を残しておくとよいでしょう。
泣き寝入りをする必要はない
このケースは女性が女性にセクハラを強要するという非常に悪質な事例です。同性からそのような仕打ちを受けることは、とても悲しいことではないでしょうか。
心に傷を負ったまま「泣き寝入り」する必要はありません。会社の相談窓口や労働基準監督署などへ相談することから始めましょう。
*取材協力弁護士:木川雅博 (星野・長塚・木川法律事務所(港区西新橋)パートナー弁護士。売買代金・売掛金・損害賠償請求、不動産の法律問題、農地・農地所有適格法人のご相談、墓地・お墓のトラブル等、法人・個人(個人事業主)の様々な案件を扱っています)
*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています)