先日、ある掲示板に男性会社員と思われる人物から「会社に入ったばかりの新人が、入社後すぐ会社のコンセントで堂々と私用のスマートフォンを充電しており、それが気に食わない」と投稿があり、物議を醸しました。
新人が私用スマホを会社で充電するのはけしからん?
投稿者によると、ほかの社員は個人携帯で顧客と連絡を取ることがあるため、充電しているそう。投稿者の主張は、「何の実績もない新人がスマホを充電するなんてけしからん」というものでした。
これに対し、ネット上では「大した金額でもないのにケチくさい」「それくらい認めれやれよ」「老害的思想」と散々叩かれていました。
しかし、「確かにおかしい」と声を上げた人も存在しています。法的に見て、会社のコンセントで私用のスマホを充電することは問題ない行為なのでしょうか?
エジソン法律事務所の大達一賢弁護士に見解を伺いました。
法的に見てどうなの?
大達弁護士:「まず、電気は刑法上『財物とみなす』とされ、財物として扱われるため(刑法245条)、会社の従業員が、会社の電源を使用して私用のスマホなどを充電することについて、会社側が許諾していない場合には、窃盗罪(刑法235条・245条)が形式上成立する可能性があります。
簡単に言い換えると、刑法は、他人の管理下にある電気を勝手に使用した場合には、他人の物を盗んだ場合と同様に考えましょう、という規定になっているのです。
とすると、もし、会社側が許諾していないにもかかわらず、会社が管理している電気を勝手に使用して私用のスマホなどを充電した場合には、形式的には窃盗罪に当たると言えそうです。
民事上も、会社が充電に対して明確な承諾を与えていないような場合には、電気を窃取するものとして、民法上の不法行為(民法709条)が成立し、電気使用量相当額の賠償責任を負う可能性がありますが、仮にそのスマホが完全な私用ではなく、仕事用にも使われているようなものの場合、会社としてはその充電に対して黙示に承諾を与えていると言えるかもしれません。」
私用スマホは充電を禁止することもできる
大達弁護士:「これらを逆に考えると、業務に使用する可能性のない完全な私用スマホの充電に関しては、会社側は充電を禁止することはできますが、業務にも使用する私用スマホや、会社から支給されている業務用スマホについては、会社での充電を禁止したり、禁止を破ったことを理由として懲戒したりすることには問題があると言えるかもしれません。
もっとも、近年では、情報流出のリスクを踏まえ、会社としては少なくともPCのUSBを利用して充電することについては厳しく管理する傾向が強まっているような気はします。そのような場合、会社としてはPCのUSBを利用した充電を禁止することに合理性はあるといえそうですし、その違反があった場合に懲戒されることも、同様に容認されるものと考えられます。
スマホが普及してから、常に電源を探していたり、常にバッテリーを持ち歩いたりしている人が増えた気がしますが、電車に乗って座席を見渡していると、皆一様に下を向いて一心不乱にスマホをいじったりしている姿に違和感を覚えるのは私だけでしょうか。
スマホは操るものであり、操られるべきではありませんが、この記事をご覧になっているあなたもスマホ画面をまさに見ているところかもしれません。
歳末の忙しい時期、イルミネーションも輝いています。たまにはスマホから目を離し、外の景色に目を向けてみてはどうでしょうか。」
■禁止ルールの統一を
投稿者の場合、年数を重ねた社員の私用スマホ充電を許していることなどから、「新人だけ許さない」という措置は、通らない可能性が高いでしょう。
しかし会社が全面的に「私用スマホ充電禁止」としている場合は、破った場合、窃盗罪に問われることもあり得るようです。いちいち目くじらを立てるようなことでもないような気はしますが、おかしいと思うならば「私用スマホ全面禁止」とするべきかもしれません。
*執筆・法律監修: 大達 一賢(エジソン法律事務所。第一東京弁護士会所属。「強い、やさしさ。」、「守る≒攻める」、「戦略&リーガル」の3つの思いを胸に、依頼者のために全力を尽くします)
*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています)