コープさっぽろが北海道電力に損害賠償を検討し取り下げ 訴えたらどうなった?

9月6日に発生した北海道地震。苫東厚真発電所 の被災により、発電・送電機能がストップしたことをきっかけに、北海道全域で停電が発生。

前代未聞の「ブラックアウト」で、数多くの人が不安な夜を過ごすことになるとともに、飲食店や小売店は営業することができず、損失を出すことになりました。

 

「コープさっぽろ」が損害賠償請求を検討

10月上旬、停電を起こした北海道電力に対し、「コープさっぽろ」が「停電によって約9億6,000万円の損失が出た」として、損害賠償を求める方向で検討していると報じられ、大きな話題となりました。

結局北海道電力はネット上の批判や組合員からの自制要求を受け、損害賠償請求を断念しましたが、仮に請求していた場合、「訴えが認められるのか」については、今後も災害が起こりうる可能性が高いだけに気になるところです。

実際のところどうなのか、エジソン法律事務所の大達一賢弁護士に見解を伺いました。

 

不法行為の成否が焦点に

大達弁護士:「電力会社が停電を起こした場合、冷凍や冷蔵の食品を扱う会社など、電気が欠かせない業務を行う会社には甚大な損害が生じる場合があります。

このような損害が生じた場合には、電力会社に対して電力供給をしなかったことが不法行為に該当するとして、または電力供給契約に違反があったとして、それぞれ損害賠償請求をすることが考えられますが、このような請求は認められるのでしょうか。

まず、不法行為を理由とする損害賠償請求が認められるためには、停電が生じたことに対して電力会社の故意または過失があったといえる必要があります。」

 

今回の地震で「過失があった」といえるのか?

大達弁護士:「今回の全道に及ぶ停電は、北海道南部を震源とする最大震度7の地震によって、北海道最大の出力を誇る苫東厚真火力発電所が緊急停止し、需給バランスが崩れたことによって生じたものだといわれていますが、このような原因に基づく停電について、北海道電力に故意または過失があったといえるのでしょうか。

まず、地震によりやむなく緊急停止したことについて、少なくとも故意があるとは言いにくいと思われるため、過失の有無について検討します。

過失があるといえるためには、地震が起きることの予見可能性があり、かつ地震により緊急停止するという結果を回避することができる必要がありますが、震度7という非常に大きな規模の地震が起きることの予見可能性まで認めることは難しいかもしれません。

ただし、熊本地震に続いて震度7が数年内に複数回起きている現状を考えると、今後も同規模の地震等が頻発するといった状況になれば、電力会社も大地震を想定した体制作りが求められ、結論も変わり得るかもしれません。」

 

契約責任は電力会社の約款で定められている

大達弁護士:「続いて、契約責任について考えます。契約は両当事者の合意により成立するものですが、電力会社の場合には約款でその内容が定められているため、北海道電力の電気供給約款を見てみました。

同約款の40(1)は

『当社は、次の場合には、供給時間中に電気の供給を中止し、またはお客さまに電気の使用を制限し、もしくは中止していただくことがあります。』

とし、ロには『当社が維持および運用する供給設備に故障が生じ、または故障が生ずるおそれがある場合』、ニには『非常変災の場合』と規定されています。また、同(2)では、

『⑴の場合には、当社は、あらかじめその旨を広告その他によってお客さまにお知らせいたします。ただし、緊急やむをえない場合は、この限りではありません。』

 

としています。

また、同約款42(1)において、

『40(供給の中止または使用の制限もしくは中止)⑴によって電気の供給を中止し、または電気の使用を制限し、もしくは中止した場合で、それが当社の責めとならない理由によるものであるときには、当社は、お客さまの受けた損害について賠償の責めを負いません。』

と規定されています。

これらの規定からすると、最大震度7という非常に強い地震という非常変災を原因とするものであり、それによって震源地に近い火力発電所の緊急停止という緊急やむを得ない事態が生じた場合には、苫東厚真火力発電所の1号機から3号機までの供給設備に故障が生じ、または故障が生じる可能性があるといえそうです。

また、そのまま電気の供給が続くと需給バランスが崩れ、ほかの発電所などにも甚大な影響を及ぼしかねず、保安上必要があったといえる今回の場合には、北海道電力の責めとならない理由による停電であるといえ、損害賠償責任はないといえそうです。」

 

今後震度7が続けば損害賠償が認められる場合も

大達弁護士:「もっとも、先に述べたのと同様、仮に、今後も震度7が頻発するようなことがあれば、もはや震度7の地震は『非常変災』ではなく、事前告知なく送電を停止できる場合ではないとして、損害賠償請求が認められる場面も出てくるかもしれません。

北海道地震は北海道全土において電力という重要なインフラが停止し、甚大な影響をもたらしました。特にマンション住まいですと、電力が停止することで水をくみ上げるポンプも停止するため、それにより上階の部屋では断水が生じたというケースも多数聞きます。

備えあれば憂いなしという言葉がありますが、地震だけじゃなく台風やゲリラ豪雨など、とかく天災に見舞われる近年、改めて日常の備えを見直し、憂いのない毎日を過ごして行きたいですね。」

コープさっぽろの主張も理解できないものではありませんが、北海道電力の電気供給約款に『故障や災害の場合電力供給や使用を制限することがある』と謳われていることから、請求が認められることは、ほぼ不可能のようです。

災害はいつ人間を襲ってくるかわかりません。普段から防災意識や対策をしておくことが重要ですね。

 

*執筆・法律監修: 大達 一賢(エジソン法律事務所。第一東京弁護士会所属。「強い、やさしさ。」、「守る≒攻める」、「戦略&リーガル」の3つの思いを胸に、依頼者のために全力を尽くします)

*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています)

大達 一賢 おおたつ かずたか

エジソン法律事務所

東京都千代田区神田錦町1-8-11 錦町ビルディング8階

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