都内の会社に勤めるTさんは、営業部長の自分勝手な行動に怒りを感じています。その理由は、自由すぎる勤務態度。
午後15時頃に出社してすぐに帰ってしまう、気分で出勤しないことがある、いつ出勤するか部署メンバーに告げないなど、やりたい放題なのだそうです。役員が注意はしていますが、本人は「売上は上げている。文句はないだろう」とどこ吹く風。Tさん以下営業部のメンバーは、やる気を削がれているといいます。
営業部長の「売上を上げていれば勤務体系は自由」という論理は法的に通用するのでしょうか? エジソン法律事務所の大達一賢弁護士に見解を伺いました。
懲戒の対象になる可能性
大達弁護士:「一般的に会社に無断で欠勤したり、出勤時間を変更したりすることは、原則として、就業規則に反し、または、労働契約に付随する「職務専念義務」に反することになると考えられます。
この「職務専念義務」は、法律上の概念ではないものの、最高裁の判例では「労働契約により労働者は就業時間中その活動力をもっぱら職務の遂行に集中すべき義務を負う」(最判昭和57.4.13「伊藤正己補足意見」)としており、一般企業においても職務専念義務を負うと解されています。
そして、従業員が就業規則や職務専念義務に反する場合、会社は、違反した従業員に対し、就業規則に基づいて懲戒をすることとなります。
本件のような場合にも、就業規則や労働契約で「売上を一定以上上げている場合に欠勤等をすること」が認められていない限り、営業部長は懲戒の対象となるでしょう」
管理監督者の場合は許されることも
大達弁護士:「もっとも、懲戒の対象となるからといって、会社には懲戒処分をする義務があるわけではないので、営業部長の上司に当たる人物(代表取締役など)が、営業部長の行動を認識しつつ、敢えて黙認しているような場合には、当該会社においては事実上、売上を一定以上上げている場合に欠勤等をすることが認められていることになります。
この場合において、ほかの従業員が営業部長と同様に、一定以上の売上を上げているにもかかわらず、欠勤等が認められないような場合や、欠勤等に対して公平性を欠く懲戒処分がなされた場合には、会社の処分が権利濫用(労働契約法3条5項、同15条)として無効になる可能性もあります。
また、営業部長が「管理監督者」(労働基準法41条2号)として出欠勤等について大幅な裁量を有している場合には、結果として売上を上げていることを理由に会社を欠勤することも許容される場合もあるように思われます。
この「管理監督者」として認められるためには、
①会社の経営方針や重要事項の決定に参画し、労務管理上の指揮監督権限を有していること
②出退勤等の勤務時間について裁量を有していること
③賃金等について一般の従業員よりもふさわしい待遇がなされていること
という3つの要件を満たす必要があるため、むしろ管理監督者に当たることの要件として、出退勤が自由ということになります。
ただ、一時期、名目管理職という言葉が社会的耳目を集めたように、単純に営業部長という肩書を保有しているだけでは「管理監督者」には該当せず、例えば取締役や執行役員など、経営陣の一員として取り扱われ、広範な裁量を有しているような場合にのみ「管理監督者」に該当することとなります」
和を乱さない行動を
大達弁護士:「最後は話が少々ずれましたが、会社での仕事というのは結果が求められるものとはいえ、1人でするものではなく、全体の和が求められるのもまた事実。売上を上げていればそれでいいんだ! という姿勢のみでは、周囲との調和が得られず、会社内に不協和音を生んでしまい、結果として居づらくなってしまうかもしれません。
また、会社の継続性を重視するのであれば、唯我独尊にならずに後進を育成するというのもいいのかもしれません。独立をするときだってそう。人という字は人と人が支え合ってできていると言った某有名な先生の言葉を思い出し、快適な職場環境を整えたいものですね」
Tさんの悩みの種である営業部長が「管理監督者」の要件を満たしている場合や、一定の売上を上げれば自由出勤という規定が就業規則にあれば、営業部長の奔放なふるまいも、法的に認められるようです。
しかし、部下から不満を持たれている状態は、道義的に適切とはいえないのではないでしょうか。
*執筆・法律監修: 大達 一賢(エジソン法律事務所。第一東京弁護士会所属。「強い、やさしさ。」、「守る≒攻める」、「戦略&リーガル」の3つの思いを胸に、依頼者のために全力を尽くします)
*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています)