漫画村を全著作者が損害賠償請求したら総額はいくら?

6万作以上の漫画を無料で読める状態にし、月間利用者は1億人とも言われた漫画村。閉鎖はしたものの、漫画村の運営方法や法的解釈、国としての対応など、未だ注目が集まっています。

通常、著作権を侵害された者は損害賠償請求ができますが、この巨大サイトの場合、もし損害賠償をしたら一体いくらになるのか? りのは綜合法律事務所の荻原邦夫弁護士にお伺いしました。

本当に違法ではないのか?

漫画村サイト内では、「他サーバーにアップされた漫画を閲覧させているだけなので違法ではない」「海外運営なので日本の法律は適用されない」と説明されていました。本当にそうなのでしょうか?

荻原弁護士「漫画村内のサーバーには画像を保管していないことについてですが、そもそも何をもって漫画村外だと主張しているのか、です。

漫画村により管理されているのであれば、それは漫画村内と評価することができます。多量のデータを整然と管理できていることからも、漫画村の関与は推察されてしまうでしょう。

また、海外での運営が本当だとしても、その実態が問題になります。実質の運営主体が日本にあるとされることは十分考えられます。また、日本に向けた日本語によるサービスであれば、それをもってそもそも日本で行われていると評価することができる場合もあります。

漫画村側は、違法ではないことを主張していますが、それが裁判で認められるのは容易ではないと考えます。」

利用しただけでも犯罪になる?

法的に問題があるサイトを利用した場合、利用者も罪に問われることはあるのでしょうか?

荻原弁護士「利用者の行為は、漫画村のWEBサイトで漫画を見ることですが、いわゆる海賊版ということになり、著作権法違反の問題を考えなければなりません。

現在の著作権法では、仮にそれがいわゆる海賊版であるとしても、罰則が適用されるのは、ダウンロードして録音または録画をしたときです。漫画の閲覧だけで利用者に対して著作権法違反を問うことはできません。

しかし、広い意味で違法行為への加担と評価する余地がないわけではありません。漫画村を利用することが完全に合法であると言い切ることは難しいです。」

漫画村の存在自体もグレー、利用についてもグレーのようですね……。

 

賠償金は数百億円から数千億円!?

もしも漫画村で閲覧可能にされた作品の全著作者が損害賠償請求したら、総額はいくらになりますか?

荻原弁護士「損害額は、請求する側が算出する必要があります。漫画村の場合は、単純に物を転売された場合と異なり、複製が容易な著作物を閲覧させるという形態ですので、どのように損害を算定するかを考えなければなりません。

ひとつの考え方として、本来であれば売れた商品が売れなくなったというものがあります。今回のケースでいえば、漫画村で閲覧されたものは、本来であれば正当な商品が買って読まれる商機を奪ったということになります。

著作権法では、このような考え方により損害額の推定のための規定をいくつか設けています。実際の計算は複雑な部分もありますが、概要、次のいずれかの方法を取ることが可能です。

1)侵害者の譲渡等数量×権利者の単位あたりの利益
2)侵害者が得た利益
3)ライセンス料相当額

1)の方法が比較的容易な算出方法でしょう。漫画村への訪問者数が数億ならば、一冊あたりの利益を数百円とすれば、全体で数百億円から数千億円以上の損害額が推定は一応可能になります。

もちろん、この金額は、現実の漫画の市場の規模からして大きすぎますので、それだけの損害が実際にあったといえるかという問題はあります。個々の著作権者全員が損害賠償を請求するともいえません。また、損害額が認められたとしても、侵害者側の支払能力がないことも考えられます。

漫画村に類似する侵害行為は、今後も生じてくることが考えられます。個別の損害賠償事件としての性質もありますが、コンテンツ産業として、法整備も含めての対策が必要といえます。」

著作者全員での損害賠償請求は途方もない金額になってしまいそうです。これが現実的な金額ではない可能性があるとはいえ、利用者の「タダで読めてラッキー」「違法じゃないなら利用してもいいだろう」という軽い気持ちの積み重ねがこの金額に表れているともいえます。漫画などのコンテンツ文化を廃れさせないためには、法整備などの対策とともに著作権に対する国民の意識向上が必要なのではないでしょうか。

 

*取材協力弁護士:荻原邦夫(りのは綜合法律事務所。刑事事件を主に取り扱っています。お客様に落ち着いていただき、理解していただけるよう対応します。)

*取材・文:フリーライター 岡本まーこ(大学卒業後、様々なアルバイトを経てフリーライターに。裁判傍聴にハマり裁判所に通っていた経験がある。「法廷ライターまーこと裁判所へ行こう!」(エンターブレイン)、「法廷ライターまーこは見た!漫画裁判傍聴記」(かもがわ出版)。)

*画像はイメージです(pixta)

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