財務次官による女性記者へのセクハラが報道され、話題となっています。そんな中、アメリカではハリウッドのセクハラ疑惑を報道した新聞が報道界最高の栄誉であるピュリツァー賞の公益賞を受賞しました。
このようにセクハラは社会的にも注目される大きな問題ですが、性的な問題ゆえに被害者が声を上げにくいという側面も。職場でのセクハラに耐えかね、雇用主や加害者などに被害を訴える前に退職する社員も少なくはありません。このような場合について、ともえ法律事務所の寺林智栄弁護士にお聞きしました。
時効は3年! お忘れなく!
職場でのセクハラに耐えかねて退職してしばらく経つが、やはり慰謝料を請求したいと思い直したとします。時間が経っていても慰謝料請求は可能ですか?
寺林弁護士「慰謝料請求には、法律上、損害および加害者を知ったときから3年という期間制限があります。セクハラのケースですと、被害に遭った時点で損害および加害者を知っているので、その時点から3年ということになります。いつまでも請求が可能なわけではありません。」
セクハラでは、民法709条「不法行為による損害賠償」を適用します。これには3年間の時効が定められているのです。
民法709条 不法行為による損害賠償
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
時効を過ぎてしまった場合は?
寺林弁護士「期間を過ぎてしまったら慰謝料請求はできません。労基署などに被害申告して指導をしてもらうなどは法的には可能だと思いますが、実効性に乏しいため、事実上動いてもらうことは難しいでしょう。」
腹が立っても、悔しくても、残念ながら時効は時効。それでは、慰謝料は無理でも、退職した会社に再び雇ってもらうことを求めることはできないのでしょうか?
寺林弁護士「退職時の状況(セクハラ被害を会社に訴えでたかどうかなど)にもよりますし、最終的には会社判断になりますので、一概にはなんとも言えないでしょう。ですが、一度退職した人を雇うということは一般的には難しいのではないかと思われます。」
後になって「やっぱり辞めたくない」「慰謝料をもらいたい」と考えても、時効を過ぎてしまうと打てる手はほぼなくなってしまうのですね。
証拠が失われないように注意
被害直後は精神的な負担が多く、何も訴えずに退職を選択することもあるでしょう。落ち着いてから改めて被害を訴えることにした場合、どんなことに気をつければよいでしょうか?
寺林弁護士「最初に述べましたが、やはり時効期間が経過していないかどうかが一番問題です。また、時間の経過によって証拠がなくなってしまうこともよくあります。証拠が十分にあるかどうか検討することが必要だと思います。」
セクハラがあったことを証明するためには、証拠が必要です。音声や動画などセクハラの記録や、同僚など周囲の人の証言、セクハラを受けた日時や内容などを記したメモ、精神的ショックを証明する病院の診断書などが有効となります。
セクハラで悩んでいるなか、このような証拠を用意することは大変かもしれません。しかし、少しでも傷を埋めたり身を守ったりするためには大切なことなのです。
*取材協力弁護士:寺林智栄(ともえ法律事務所。離婚・男女トラブル、労働トラブル、交通事故、借金問題、遺産相続、詐欺被害、消費者被害、刑事事件などを扱う)
*取材・文:フリーライター 岡本まーこ(大学卒業後、様々なアルバイトを経てフリーライターに。裁判傍聴にハマり裁判所に通っていた経験がある。「法廷ライターまーこと裁判所へ行こう!」(エンターブレイン)、「法廷ライターまーこは見た!漫画裁判傍聴記」(かもがわ出版)。)