赤ちゃんの誕生を心待ちにしていたでしょうパパ。しかし、そんなパパが赤ちゃんを目にする前に亡くなってしまったら…。なんとも悔やまれますね。
赤ちゃんがまだお腹のなかにいる場合、遺産はどのように分割されるのでしょうか。もし、赤ちゃんが相続できないとなると、奥さんであるママと、亡くなったパパの両親または兄弟が相続することになり、奥さんの手元に残る分は減ってしまいます。
亡くなったパパの気持ちを考えると、せめて自分の財産くらいは大切な家族である奥さんと生まれてくる赤ちゃんに十分残したいでしょう。しかし、お腹の赤ちゃんはパパの遺産を相続できるのでしょうか?
この記事は、桑田・中谷法律事務所の中谷 寛也先生に監修いただきました。
お腹の赤ちゃんにも父親の遺産を相続する権利はある
本来、お腹にいる赤ちゃん(胎児)には権利能力が認められていません。しかし、相続に関しては例外で、お腹にいる赤ちゃんにも認められると民法886条で定められています。
第八百八十六条 胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。
引用元:民法886条
権利能力とは、法律で認められた権利や義務を持つ一つの存在であることを認められる地位のことをいい、私たちは権利能力があるから、買い物をしたり、仕事をしたり、結婚したりできるのです。原則として権利能力は、人が生まれたときに認められ、亡くなったときに失います。
第三条 私権の享有は、出生に始まる。
引用元:民法第3条
では、なぜ相続だけ例外的に認められているのでしょうか。それは、赤ちゃんの出産日によって、相続できるかどうかが変わってしまっては不公平となるからです。
例えば、3月15日に赤ちゃんが生まれて、3月16日に父親が亡くなった場合は赤ちゃんも遺産を相続することができますが、3月15日に父親が亡くなり、3月16日に赤ちゃんが生まれた場合は、民法886条の規定がないと赤ちゃんは遺産を相続できません。
たった1日の違いで相続できないとなると、残された母親と赤ちゃんは財産が減ることになってしまう。それでは困りますよね。そのため、相続についてはお腹にいる赤ちゃんにも認められているのです。
出産時に赤ちゃんが亡くなってしまった場合はどうなる?
出産時に赤ちゃんが亡くなった場合、お腹にいる赤ちゃんがすでにパパの財産を相続していたものとして、ママが相続するということになるのでしょうか。この場合の規定も民法にはあります。
2 前項の規定は、胎児が死体で生まれたときは、適用しない。
引用元:民法886条
あくまで、お腹にいる赤ちゃんに認められている相続の権利は暫定的なものであり、生まれてきて初めて行使できる権利なのです。そのため、残念ながら死産となった場合には、赤ちゃんの相続はなかったこととなりますが、出産後に少しの間でも生きていれば、赤ちゃんは父親の遺産を相続する権利を持っていることになります。
赤ちゃんが出産前に亡くなったのか、出産後に亡くなったのかによって、父親の遺産相続人の範囲が変わってくるのです。
赤ちゃんがお腹のなかにいるときにお父さんが亡くなった場合、赤ちゃんは相続の対象にはなります。しかし、実際に相続されるのは無事に生まれてきたときのみですので、その点は理解しておくべきでしょう。
*記事監修弁護士:桑田・中谷法律事務所 中谷 寛也先生(「目の前の依頼者のため全力で」弁護士になって以来、このモットーを掲げる弁護士。企業法務、著作権関連、債務整理を中心に幅広く案件を取り扱う。「弁護士と接するのが初めての方にも、わかりやすく、丁寧な説明を心がけています。」東京弁護士会所属)
*取材・文:アシロ編集部
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