『女性専用車両』と聞いてピンと来ないという人はあまりいないでしょう。今やメジャーとなった女性専用車両は、元々京王電鉄京王線が2000年に試験的に運用したのが始まりでした。
朝の通勤ラッシュでぎゅうぎゅうの車両に乗る際、女性はつい痴漢のリスクを考えてしまいますよね。一度でも痴漢に遭ったことのある女性にとっては、朝の満員電車はトラウマかもしれません。そんな方には女性専用車両はとてもありがたいものでしょう。
ですが、その『女性専用車両』に反対の声を上げる方もいます。
そんな人々が女性専用車両を設けている鉄道会社を訴えたという事例があります。ここではその判例をわかりやすく解説します。わかりやすくするため、実際の判例をかなり省略していますがご了承ください。
■事案の概要
とある男性XがAという女性専用車両反対団体の人4人とともにY(鉄道会社)の女性専用車両に乗り込んだ。するとXらはYの駅員から降りるように言われ、それを拒否すると、さらに鉄道警備隊や警備員もやってきてその車両に乗り込んできた。
男性Xは、女性専用車両であっても本来誰でも乗れるはずなのに、まるで乗っていた自分らが犯罪者のようではないか!これは名誉毀損だ!
それにそもそも女性専用車両という半強制的に男性を乗車させないというこのシステムは居住・移転の自由(人間の住むところ、いるところは自由であるということ)を侵害し、法に反している。
名誉毀損による精神的苦痛に対する損害賠償(慰謝料300万円)と、謝罪の広告の掲示を要求する!
というのがこの事案の内容。
■判決
Xの主張する人権(居住・移転の自由)が保障されるのも当然だけれど、一方鉄道会社にも営業の自由が保障されている。満員電車のなかで痴漢や、痴漢冤罪が横行するなか、少しでも多くの人々に安心して乗車してもらいたいということで設置されたのが女性専用車両。
それに女性専用車両は朝と夕方のラッシュ時の6車両中たった1車両のみ。男性客に対して大きな困難を与えるほどのものではない。
女性専用車両の目的は正当あるし、その実用性の確保が重要であることから「健全な男性も乗車可能」と掲示せず、「女性と小学生以下の子供、体の不自由な方、高齢者は乗車できます」と掲示し、名称も「女性専用車両」としたことは法律上で違法とはいえない。
Xらが乗車することで、他の乗客が不快に感じることは明らか。それを分かった上で乗車したXに対し、駅員や鉄道警備隊、警備員らに説得、注意することは不法行為とは認められない。
以上のことから、女性専用車両に違法性は認められず、乗車した男性らを下ろすよう注意した駅員らの行動も不法行為とはされませんでした。
みなさんは『女性専用車両』についてどう思いますか? 痴漢や、痴漢冤罪など電車内ではさまざまなトラブルが起こります。『女性専用車両』はそれを防ぐ対策の1つになっていることは確か。
しかし、悪意なく、また、故意でもなく女性専用車両に乗ってしまった男性がいたら、その人にとっては、女性の視線に嫌な思いをしてしまうかもしれません。女性だけがひいきされているようで嫌だ、と思う人もいるでしょう。
世の中には、すべての人が賛成することなど存在しないのではないでしょうか? さまざまな意見があって当然です。多数派の意見だけがすべてではないかもしれませんね。
参照判例: http://www.kokusen.go.jp/hanrei/data/201712_1.html
*取材協力弁護士:水田法律事務所 河野晃弁護士(兵庫県姫路市にて活動をしており、弁護士生活8年目を迎える。敷居の低い、気軽に相談できる弁護士を目指している。)
*取材・執筆/アシロ編集部
*画像
画像はイメージです(pixtaより使用)