近時、高齢者の資産管理に関する相談が増えていると感じます。
それもそのはず。国立社会保障・人口問題研究所の調査によれば、50歳まで一度も結婚をしていない方の割合は2015年時点で男性が23%(概ね4人に1人)、女性が約14%(概ね7人に1人)と上昇の一途を辿っています。
また、配偶者がいたとしても子がいなければ場合によっては単身者となってしまいます。その意味で、今後誰しもが直面する可能性のある問題といえます。
このような悩みを抱えた方の死亡や認知症にまつわる問題につき、法律上、どのような対処方法があるのかにつき考えてみましょう。
■伝統的な対処方法としての遺言
自らの考えどおりに相続をさせたい場合、真っ先に浮かぶのは遺言だと思います。この方法のメリットは比較的自由に資産承継させることができる点にあります。
特に、特定の人に特定の財産を「相続させる」旨の遺言があれば、不動産であってもその相続人が確定的に権利を有し、単独で所有権移転登記手続をすることもできます。
また、法的なことにはなりますが、子の認知等の身分に関することも遺言ですることができます。
ただし、遺言はそれ自体が法律行為なので、遺言をする方の判断能力がなければその有効性が争われる可能性もあります。
また、ご自身で作成しようとすると気付かないうちに内容が矛盾していたりして「相続させる」旨の遺言と解釈できなくなってしまったり、法的な形式を満たさなくなる等、せっかく作成したのにいざという時に使えなくなってしまうおそれもあります。
このような観点から、近頃は公正証書遺言が増えていますが、公正証書にしたからといって内容にお墨付きがもらえるわけではないことには注意が必要です。
■法定後見制度と任意後見制度について
遺言の他に、現在活用されることが多い対処法として、法定の成年後見制度と任意後見制度があります。
法定後見制度はご本人の判断能力が常に欠けた状態になってからでないと利用できず、原則として後見人は財産の保存行為しかできません。
任意後見制度は逆にご本人の判断能力が欠ける前に後見人を指定せねばならず、必ずしも指定した者が後見人に就任するとは限りません。
たとえば、懇意にしている姪が近時破産していたりすると、後見人に指定しようとしても、裁判所の判断によっては他の者が後見人に指定されます。
また、いずれの制度もご本人が亡くなった場合、後見人ができることはありません。そのため、基本的にはご本人が生存中に限り、財産を管理・維持してもらえるだけです。
■新たな対処方法としての民事信託制度
そこで、近年新たに活用され始めた対処法が民事信託制度です。
民事信託とは、不動産や金銭等の資産を一定の目的に沿って信頼できる者に託し、その目的の範囲内で管理、運用及び処分を可能にする制度です。
その最大のメリットは、委託した方が亡くなった後も効力を残すよう取り決めることによって、相続の手続をすることなく、スムーズな資産継承が可能となる点にあります。
また、民事信託後、委託した方が認知症になった場合であっても変わらず管理、運用及び処分ができます。
デメリットとしては専門性が高いので専門家の関与が必要不可欠である点と、子の認知等の身分行為はできない点が挙げられます。
このように、民事信託制度は、遺言によって対処できない問題と後見制度によって対処できない問題のそれぞれを解決する画期的な制度と評価できます。
もっとも、民事信託制度は未だ十分に認知されておらず、活用例も多くないのが現状です。今後、高齢者の資産管理に関する問題が一層社会問題化していくことが予想され、広く周知されていくものと考えられます。
本稿をお読みになられた方は民事信託制度につき頭の片隅に置いていただければと存じます。
*著者:弁護士 中川 翔伍(丸の内ソレイユ法律事務所の弁護士。離婚、相続、労務まで幅広く多様な案件を扱う)
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