ある大学の名誉教授が日本語ワープロ検定の試験問題を事前に受検者に漏洩していたとの報道がありました。
問題の漏洩や受験者のカンニングなどはしばしば発覚しますが、法的にはどういった問題点があるのか解説してみたいと思います。
■問題漏洩にはどんな法的問題があるのか
まず、今回の日本語ワープロ検定試験を主催しているのは同試験の検定協会である民間の機関です。
これを前提として、試験問題の漏洩によりどのような被害が誰に生じているかについて考える必要があります。本件の漏洩行為により被害を被っているのは、この日本語ワープロ検定試験を実施している検定協会自体です。
一般的に検定試験は、合格者に一定の能力を有することが保証されることに社会的意義が認められます。
しかし、試験問題の漏洩行為が行われることにより、試験が有する適正な審査基準という機能が失われ、試験の信用性や社会的価値が損なわれることになります。その結果、検定試験の受験者が減少し、これを主催者の事業活動に支障をきたす場合があります。
このような、人や法人の業務を妨害する行為について、刑法は、「虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて人の業務を妨害した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する(刑法233条後段)」と定めています(業務妨害罪)。特に本件では、偽計を用いて業務を妨害したとして、偽計業務妨害罪(刑法233条後段)が成立します。
■偽計業務妨害罪とは
偽計業務妨害罪について詳しく触れてみたいと思います。
まず、この「偽計を用い」るとは、人を欺き誘惑し、または他人の無知や錯誤を利用することを指します。「偽計」というためには、他人の適正な判断又は業務の円滑な実施を誤らせるに足りる程度の手段、方法であることを要します。
一般的な例としては、メーカーの販売する商品の品質について事実とは異なる誹謗中傷を行ったり、また会社へ繰り返し迷惑電話をかける行為などが挙げられます。
今回の行為も、試験が行われる前に試験問題を漏洩することによって、試験の実施という業務の円滑な遂行を妨げているため、この「偽計」行為に当たります。
また、試験問題を漏洩した者は、必ずしも試験主催者の業務を妨害してやろうという意思で漏洩行為を行ったわけではなく、生徒や受験者を合格させたいという気持ちでこのような行為に出たのかもしれませんが、行為の結果業務が妨害されることを認識していたのであれば、やはり本罪は成立します(「未必の故意」といいます)。
■漏洩した試験問題により違いはあるのか
次に、漏洩した試験問題を主催する機関の性質によって成立する犯罪が異なってきます。
例えば、国家公務員法では「職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない」(法第100条第1項)と定めているところ、漏洩した者が国家公務員であるような場合は、この守秘義務違反行為を行ったとして、国家公務員法違反が成立します。
また、例えば医療に関する資格試験などについては、医師法や歯科医師法で情報漏洩行為を罰する規定が定められており、試験委員等が受験者に試験情報を漏洩した場合にはこれらの規定が適用されることになります。
なお、情報漏洩に伴う行為として、試験問題を管理している場所から問題用紙や解答を権限なく勝手に持ち去ったりするなどの行為については、建造物侵入罪(刑法130条)や窃盗罪(235条)等により、当然に処罰されます。
*著者:弁護士 渡部孝至(弁護士法人はるかぜ法律事務所代表弁護士。『身近な弁護士』をモットーに、ご依頼者様の目線で親切・丁寧・迅速な対応を行い、リーズナブルなご費用で良質なサービスを提供することを使命としている。)
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