「隣の住民が深夜に音楽を鳴らしていてうるさい!」
住民のかたから、大家さんや賃貸物件管理会社のもとへはこんな苦情が届きます。こんなとき、あなたが大家さんだったら、どのように対処しますか?
多くの場合は、苦情元となっている住民からヒアリングを行い、必要に応じて注意喚起をすることになるでしょう。
でも、注意しても一向に改善されない、むしろ、対抗するかのようにひどくなっていくような場合には、法的な手段を考えていく必要があります。
そこで、迷惑行為に対抗する一手段としての賃貸借契約の解除(追い出し)が可能かについて考察してみます。
■そもそも迷惑行為をしている賃借人を追い出せるの?
部屋を借りている人は、契約又は目的物の性質によって定まった用法に従い、その部屋の使用をしなければならないという用法遵守義務を負っています(民法616条で準用される民法594条第1項)。
例えば、賃貸借契約の中で、ピアノなどの楽器の使用を禁止するという用法が定められていれば、賃借人は部屋で楽器を使用してはいけません。
また、このような特約による用法が定められていなくても、深夜にピアノを大音量で弾くようなことがあれば、あまりにも常識はずれな行動として、用法遵守義務違反となる可能性が高いといえます。
用法遵守義務違反が認められる場合、大家さんは、部屋を貸している人との賃貸借契約を解除することができます(民法541条)。契約違反しているから出て行ってくれという具合です。
ただし、部屋の貸し借りの契約については、「信頼関係破壊の法理」と呼ばれる考え方があり、義務違反行為があっただけではなく、義務違反の結果として信頼関係が破壊されていると評価できて初めて解除できるという扱いになっているので、この点は注意が必要です。
■騒音、ゴミ屋敷、ペット飼育といったケースでは?
用法違反行為にもいろいろなケースがありますが、代表的な用法違反行為といえば、冒頭で挙げたように騒音の問題でしょう。
騒音の場合、その頻度や時間帯、音量等を考慮して、近隣住民において受忍すべき限度を超えていると認められれば、義務違反行為として契約を解除できるでしょう。
裁判例の中には、徹夜マージャンやカラオケ、歌声、喧嘩、床を叩く音などの事案で解除が認められたケースがあります。
次にゴミ屋敷の問題ですが、ゴミの放置による多少の不潔状態が継続した程度では解除できないと考えられますが、これも、社会常識の範囲を超えるようなゴミの量になれば別でしょう。
裁判例においても、2年以上にわたってゴミ屋敷の状態が継続した事案において、衛生上の問題だけではなく、火災の危険性も加味した上で、契約の解除を認めた事案があります。
ペット飼育については、建物の損傷や臭い、鳴き声による騒音、安全面などが判断材料とされているようです。もちろん動物の種類も検討対象となり、犬でいえば、小型犬か否かに言及する裁判例もあります。
ペット飼育が判明した時点では安全性などの問題が認められないとしても、将来における安全性等の問題までが解決されているわけではありませんから、大家さんとしては、用法遵守義務違反を理由として、契約の解除を検討していくことになるでしょう。
■喫煙行為による損害賠償請求が認められたケースも
数年前に、階下に住む住民によるベランダでの喫煙行為によって、健康被害を受けたとして損害賠償請求訴訟が提起され、不法行為が認められた事案がありました。
マンションである以上、近隣からのタバコによる煙の流入について、一定程度受忍する必要があるものの、受忍限度を超えていれば不法行為が成立すると判断されています。
したがって、受忍限度を超えるようなベランダ喫煙に対しては、健康被害を受けた近隣住民からの損害賠償請求とは別に、大家さんからの契約解除の言い渡しもあり得るかもしれませんのでご注意を。
*著者:弁護士 河原﨑友太(浦和法律事務所。2017年2月にマンション管理士に登録。ご相談に際しては、ご相談に見える方が、弁護士に何を期待しているのかを見定め、丁寧な事情聴取、解決方法の提案を心がけています)
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