企業などで不祥事が起きた際、メディアが情報を求めて社員に接触してくることも多く、余計なことを喋られては不都合となるため、情報を外部に漏らすことを禁止することがあります。一般的にこれを「箝口令」といいます。
当然のように行われている「箝口令」ですが、社員の「表現の自由」を制限しているように思えますし、「不都合なことは喋るな」という圧力とも捉えられるため、批判の声があります。
一方で、社員には「守秘義務」があるため、企業としては「当然の業務命令」との声もあるようです。法律的にみて、どうなのでしょうか?
あすみ法律事務所の高野倉勇樹弁護士にお聞きしました。
■箝口令の法的有効性は?
まず、法律的に有効性はあるのでしょうか?
「違法ではありません。企業内の情報を外部に拡散させないための指示は業務命令として有効(適法)です。ただし、後述するとおり、箝口令に対するペナルティが違法とされたり、箝口令がむしろ会社にとって不利に働く場面が多く想定されます。
なお、人命に関わることなど重大な違法行為を隠蔽して損害を拡大させるような、「箝口令」はそれ自体が違法となる場合もあり得ます」(高野倉弁護士)
場合によっては違法になることもあるようですが、基本的には適法であるようです。
■箝口令を破った社員に罰を与えたら?
箝口令を破った社員に罰則を与えた場合、どうなるのでしょうか?
「箝口令に違反することは、形式的には業務命令違反となり得ます。理屈の上では、懲戒処分をすることも可能ではあります。ただし、箝口令によるペナルティは以下の2つの観点から違法(無効)とされる可能性が高いといえます。
第1に、箝口令違反だけで懲戒したり、懲戒の内容が重かったりしたときは、その懲戒処分は違法(無効)とされる可能性が高いと思われます。
第2に、公益通報者保護法における公益通報に該当する場合、箝口令破りを理由として解雇・雇い止めなどの不利益な取扱いをすることは、違法となります。
第1の点と併せて、箝口令破りをしてもペナルティを科すことが事実上難しいことになります」(高野倉弁護士)
■箝口令が企業に不利になる?
違法性はないという箝口令ですが、高野倉弁護士はそれをすることで「企業が不利になることがある」と指摘します。
「企業不祥事だからといって正義感に駆られて直ぐに外部へ通報すると、通報したことが違法となる場合があります(情報漏洩や名誉毀損)。
ですが、箝口令を敷く(外部への通報制限を要求する)と、むしろ外部への通報(情報拡散)が正当化されやすくなります。
公益通報者保護法では、外部に通報してよい場合の条件の一つとして“通報しないことを正当な理由なく要求された場合”が挙げられているからです。
裁判例でも、企業の自浄作用が働いていない場合には、外部通報もやむを得ない(適法である)とした例があります。
箝口令はペナルティが違法・無効とされる上に、外部通報も正当化されやすくなってしまうので、得策ではありません」(高野倉弁護士)
■弁護士が推奨する不祥事対策は?
それでは企業はどのような不祥事対策をすべきなのでしょうか?
「不祥事対策としての箝口令は、あまりよい方法ではありません。むしろ内部通報を奨励した方がよいと思われます。
内部通報窓口を常設しておく。不祥事が起きたら「改善のために意見が欲しい」として、社内から意見を集める。
その意見をしっかりと活かして対策を講じる。そうすれば、情報は自然と社内に留まり易くなります。また、社外に情報を拡散させた者がいた場合、その違法性・不当性を追求しやすくもなります」(高野倉弁護士)
企業としては当然のように感じる社員の箝口令ですが、じつはそれが法律的にみて「不利になる」のは意外でした。これを知っているのといないのとでは、会社の行く末を大きく変えることになるでしょう。
不祥事が起きた際のフローなどは、やはり実際の判例に詳しく、企業法務に精通した弁護士に相談するのが正しい選択ではないでしょうか。
*取材協力弁護士:高野倉勇樹(あすみ法律事務所。民事、刑事幅広く取り扱っているが、中でも高齢者・障害者関連、企業法務を得意分野とする)
*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)
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