皆さんが実際に務めている会社がどうかは分かりませんが、世の中には「遅刻したら理由を問わず1,000円の罰金がある」「書類の記入漏れがあると給料から天引きがされる」といったことを定めている会社があるようです。
ご存知の方もいるかもしれませんが、労働基準法16条には「賠償予定の禁止」という項目があります。後に詳細は述べますが、これは簡単に言うと「〇〇したら罰金〇〇円」ということを定めてはいけませんよ、ということです。
それでも、例えば「会社のプリンターを壊してしまい、修理代金を払わされた」という経験を持つ方もいると思います。
どういうことなのか困惑している方もいるかと思いますので、今回は少々分かりづらい労働者と使用者間の損害賠償などのお話をしたいと思います。
■「賠償予定の禁止」とは?
労働基準法16条は、「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、または損害賠償額を予定する契約をしてはならない」と定めています。これが「賠償予定の禁止」です。
要す るに、就業規則に「就業中居眠りしたら罰金」といったように定めてはいけないし、「勝手に会社を辞めたら損害賠償額100万円」といった契約もしてはいけないということです。
「賠償予定の禁止」は、こうした賠償予定を認めてしまうと、「あれも罰金、これも罰金」「~すると損害賠償額何百万円」といったように、労働者が不当に拘束される可能性があるからです。
裁判例では、「留学終了後5年以内に自己都合により退職したときは原則として留学に要した費用を全額返還させる」といった会社の留学規定について、労働基準法16条(賠償予定の禁止)に違反するので無効といったもの(新日本証券事件)等があります。
■労働者の損害賠償義務・懲戒処分
もっとも、「賠償予定の禁止」は、賠償「予定」の禁止であり、労働者が何か会社のルールに違反して会社に損害が生じた場合、労働者の損害賠償義務が全く発生しないということではありません。
賠償額等を予め定めておくことが禁止されているだけであって、労働者が使用者に損害を生じさせた場合において、使用者が労働者に対して損害賠償請求することまでは禁止されていないわけです。
ただし、例えば、労働者が使用者の説明を十分に理解できず、使用者の高額な機械設備を間違って操作して壊してしまったような場合、労働者に全部弁償しろというのも酷な話です。
使用者は労働者を指揮監督できる立場にあり、労働者の行為による損害発生が予想できるのであれば損害保険に加入したり教育体制を整備したりして損害が発生しないように予防すべきともいえます。
ですので、使用者の労働者に対する損害賠償請求は、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度においてのみ認められると考えられています。
また、労働者が就業規則の懲戒事由に当たる行為を行ったときに懲戒処分を行うことも、個々の事案ごとに、労働者の行ったことが懲戒事由に当たるか、当たるとしてどういった懲戒処分を下すかを判断するものであれば、賠償を予定しているとまではいえませんので「賠償予定の禁止」と矛盾するわけではありません。
*著者:弁護士 冨本和男(法律事務所あすか。企業法務、債務整理、刑事弁護を主に扱っている。親身かつ熱意にあふれた刑事弁護活動がモットー。)
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