最高裁が判例変更!「故人の預金債権」が「遺産分割の対象」になると誰が得するの?

2016年12月19日に、最高裁の判例変更がなされました。内容は、「共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となる」というものです。

実は今までは、「預金債権(※)」は相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されていました(最判平成16年4月20日家月56巻10号48頁)。サザエさん一家の事例をもとに、下記の3点をわかりやすく解説したいと思います。

※預金債権…銀行などの金融機関に対して寄託された金銭債権のこと。 預金債権には、普通預金や定期預金などがありますが、いずれも預金債権。(郵便貯金は含まない)

①預金債権に関する今までの判例だとどのような処理されていたのか
②郵便貯金の判例(最判平成22年10月8日民集64巻7号1719頁)だとどのように処理されていたのか
③預金債権に関する判例が変更されることによってどのように変わっていくのか

【相続の事例】
磯野波平さんには、サザエさん、カツオくん、ワカメちゃんという3人の子どもがいます。波平さんは、5000万円の土地・家屋を可愛がっていた末っ子のワカメちゃんに遺言で贈与することにして、1億2000万円の預金については何も遺言を残さずに亡くなりました(波平さんの配偶者であるフネさんはすでに亡くなっていたとします)。

*画像はイメージです:https://pixta.jp/

サザエさん、カツオくん、ワカメちゃんの相続分(波平さんの遺産を相続すべき割合)は、3人で割るため、3分の1ずつです。

5000万円の土地・家屋がワカメちゃんのものになったことについて、サザエさん、カツオくんは不満でした。そこで、亡くなった波平さんの「預金債権」について、波平さんの財産を最終的に誰のものにするかという話し合い(法的には遺産分割協議といいます)によって、サザエさん、カツオくんは、ワカメちゃんよりも多くの「預金債権」を払い戻すことができるでしょうか?

これが、今回の最高裁で判例変更があった判決のPOINTとなってくる要素です。

 

①今までの判例(最高裁が出した判断)だと、ワカメちゃんが得をしていた

波平さんの財産をサザエさんたちがみんなで相続した場合、亡くなった波平さんの土地と建物、預金を最終的に誰のものにするか決めるまでの間、亡くなった波平さんの財産は、サザエさん、カツオくん、ワカメちゃんが共有することになります。

今までの判例(平成16年の判例)によると、「預金債権」(銀行預金に関する権利)については、相続分に応じて当然に(つまり、相続人同士で話し合う余地がなく)分割されて単独に、持っていることになっていました。今回のケースだと、亡くなった波平さんの1億2000万円の預金債権について、サザエさんたちが相続を開始すると、サザエさん、カツオくん、ワカメちゃんたちは、A銀行に対して、それぞれ1億2000万円の3分の1である4000万円ずつを返してくださいという権利を持つことになります。

※ワカメちゃんが預金債権を遺産分割協議の対象とすることに反対した場合

 

法的にみると、サザエさん、カツオくん、ワカメちゃんの3人が合意をした場合は、「預金債権」を遺産分割協議の対象とすることができるのに対して、ワカメちゃんが預金債権を遺産分割協議の対象とすることに反対した場合は、「預金債権」を遺産分割協議の対象とすることはできず、サザエさんとカツオくんは、それぞれの相続分より多くの預金債権を払い戻すことができなかったのです。

ワカメちゃんが反対した場合、ワカメちゃんは9000万円分の財産を相続できるのに対して、サザエさんとカツオくんは4000万円ずつの財産しか相続できないことになり、末っ子のワカメちゃんだけが得をしていました。

 

②「定額郵便貯金債権」だと、3人の話し合いで最終的に誰のものかが決まる

ところが、亡くなった波平さんが残したのが「定額郵便貯金債権」だった場合は、相続分に応じて当然に分割されるのではなく遺産分割手続で定額郵便貯金債権が誰のものか決めると、平成22年に最高裁は判断しました。

つまり、波平さんが残したのが「定額郵便貯金債権」だと、ワカメちゃんだけが得をするのではなく、遺産分割協議で、サザエさん、カツオくんは、ワカメちゃんよりも多額のお金を払い戻すことができることにもなったのです。

最高裁が定額郵便貯金債権についてこのような判断をした理由は、「定額郵便貯金債権」についてのルールを定めた郵便貯金法という法律が分割払戻しをしないという制限を加えていたためでした。

 

③今回の判例変更によって「預金債権」も遺産分割協議の対象に

そもそも、「預金債権」は現金と同様、遺産分割を柔軟に行うために役に立つものです。現に、金銭については調整要素として最高裁も分割を否定していました。

実際、今回のケースのように、波平さんの遺産に5000万円の土地・家屋のように高額の財産が含まれる場合、サザエさんやカツオくんが「預金債権」を、ワカメちゃんよりも多く払い戻せるほうが望ましいでしょう。

また、亡くなった波平さんの全財産である1億7000万円のうち、「預金債権」が1億2000万円を占める場合(全体の約70パーセント)、これまでは具体的相続分に応じた遺産分割審判が難しくなってしまっていました。このような扱いはふさわしくありません。

今回の判例変更により、「預金債権」も、当然分割させるものとはできなくなりました。誰か(たとえばワカメちゃん)が反対しても、「預金債権」を遺産分割協議の対象とすることができるようになったのです。

図表作成:編集部

■鈴木弁護士から一言

12月19日の判例は、今までの相続実務を一変させるものです。今回のケースのワカメちゃんのように相続財産をもらいすぎだと思われる相続人がいる場合は、ぜひご相談ください。

 

*著者:弁護士 鈴木謙太郎(1972年の設立以来40年以上の歴史がある、虎ノ門法律経済事務所の池袋支店で支店長を務める。注力分野は遺産相続、不動産取引、交通事故、債権回収、労働問題、債務整理、刑事事件、離婚等。「皆様の人生の一大事を共に解決するパートナーとして、真摯に業務に取り組んでまいります。」)

【画像】イメージです

*マハロ / PIXTA(ピクスタ)

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鈴木 謙太郎 すずきけんたろう

虎ノ門法律経済事務所 池袋支店

東京都豊島区南池袋2-12-5 第6.7中野ビル7FB号室

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