インターネットに関するトラブルを中心に、様々な問題や悩みを抱える相談者のサポートをしている四谷コモンズ法律事務所の渡辺泰央弁護士。今回は実生活でも役に立つ、弁護士が実践している「論理的思考」について伺いました。
渡辺 泰央(わたなべ やすひろ)弁護士
四谷コモンズ法律事務所代表弁護士。2012年に弁護士登録を行う。ITやWebに関する法律に強く、数多くのインターネットトラブルに関する事案を取り扱っている。運営サイト「WEBに関わる法律講座」
■弁護士に求められる論理的な思考とは?
___一般的に弁護士と聞くと、非常に論理的なイメージがありますが、実際に弁護士業務をする上で論理的な思考は求められているのでしょうか。
弁護士の仕事として、論理的な思考は欠かせないですね。普段の生活など、法律論以外のシーンであれば、感情論で決着がつくことも少なからずあるとは思います。ただ、弁護士というのは法律を元に仕事をしなければなりません。一旦法の議論に乗せてしまうと、論理的でなければ相手を説得する主張ができなくなってしまうので、やはり弁護士の業務に論理的な思考は求められていると考えるべきでしょう。
___論理的な思考をする上で重視していることはありますか。
主軸をしっかりと通してから、細かいところを詰めるようにしています。
例えば仕事で相談者の方をヒアリングするときなどは、時系列を主軸と捉え、時系列を整理しながら話を聞くようにしています。相談者の方は慣れないヒアリングに緊張してしまうケースや、トラブルを思い出して感情的になってしまうことも少なからずあります。そのため、話が飛躍することや、頭の中がうまく整理できず、話がまとまらないことも多いのです。
そのような場合、客観的な事実をしっかりと把握するために、こちらで時系列を整理してから詳細な内容を聞くようにしています。時系列を整理しながら話をすると、トラブルの経緯を思い出してもらう大きな手助けになることも多く、相談者も話しやすくなります。
主軸を通してから考えるというのは論理的な思考をする上で、非常に大事だと思いますね。
■ビジネスでも役に立つ、論理的思考術
___論理的な思考はビジネスなどにも役に立つのでしょうか?
役に立つと思います。
例えば交渉の場面をイメージしてみてください。そこで、とても不利な条件を相手が提示してきたとします。それに対して、感情的に対応するというのは論理的ではありません。「なぜ相手がこのような条件を提示するのか」しっかりと考えて、深掘りをすることが論理的な思考です。
提示する条件がこちらに不利であるほど、相手は論理的な理屈をつけて説明する必要があります。「上司が言っているから」とか「こちらが大企業だから」という非論理的な理由は(本音であったとしても)交渉の過程ではなかなか言いづらいものです。そうすると、たとえば「○○のリスクを排除するため」とか「××の達成を確実なものとするため」などといった理屈づけが必要になります。
そして、ここに交渉の糸口があります。「○○のリスクの排除」や「××の達成」ができる別の条件をこちらが提示できれば、こちらが不利な条件を飲むべきとする相手の理屈を崩すことができます。それに加え、「相手の提示する条件を飲むとすれば、こちらに(又はお互いに)△△の不利益が生じることになって不合理」という理屈づけもできればより良いでしょう。ここまで理屈を掘り下げられると、相手の要望も踏まえつつ、こちらにとってより不利でない別の条件をお互いに探っていくことができ、議論を前に進めることができます。
このように、相手の主張を基礎づける論理的理由の中に、交渉の糸口が隠されていることが多いのです。その糸口から妥協案や落とし所を探っていく、これが論理的思考に基づく交渉といえるでしょう。
___論理的な思考を身につけるためにはどうしたらよいでしょうか。
論理的思考を鍛えるためのひとつの方法として、ひとつの主張に対して「なぜ?」と深掘りしていくことがあります。例えば新聞の社説などを見て、「なぜそのような主張になるのか? 理屈や根拠は? それらの理屈や根拠は正確なのか?」と深掘りするのです。
ただ、他人の主張をあまり深堀りしても、最終的に推測の域を出ないことも多いです。また他人に対して面と向かって「なぜ?」と深掘りしてしまうと人間関係がギクシャクしてしまいかねません。そこで、論理的思考を鍛えるために私が一番良いと思う方法は、“自分の”主張に対して「なぜ?」と深掘りしていくことです。
自分で掘り下げていくとわかるのですが、自分がなぜそのように考えたのかというのは、自分でも理解していないことが意外と多いのです。前提が正しいのか、どうしてそのように考えたのか、自分の考えをしっかりと掘り下げていくことで、論理的な思考力は身につけられます。
自分の主張の掘り下げに慣れてくると、他人の主張に対してもより精度の高い論理的考察ができるようになってきます。まずは自分の主張をしっかりと深掘りして、訓練することから始めるのが良いと思います。
*取材協力弁護士:渡辺 泰央(わたなべ やすひろ)弁護士
四谷コモンズ法律事務所代表弁護士。2012年に弁護士登録を行う。ITやWebに関する法律に強く、数多くのインターネットトラブルに関する事案を取り扱っている。運営サイト「WEBに関わる法律講座」
*取材・文:伊藤あきら(AFP、クラシックカメラアンドアンティークカンパニー株式会社代表取締役。同志社大学卒業後、日本生命相互会社、HIPHOPダンサー、税理士法人を経て、現職。会社経営の傍ら、フリーライターとしても活動している。)
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伊藤あきら