「引きこもり」の人のうち、40歳以上で期間が10年以上に及ぶ人を対象に、本人や家族らでつくる全国団体が初の実態調査を始めた、との報道が11月末にありました。
これまでは、仕事や学校に行かず家族以外とほとんど交流しない「引きこもり」とされる人は、15~39歳までが対象とされており、今年9月には内閣府が全国で約54万人になると推計結果を公表していました。以前より人数は減少傾向にあるようですが、「期間の長期化」と「高齢化」が顕著となっていることを受けて、40歳以上の調査に乗り出す流れとなったようです。
このニュースを受け、タレントのマツコ・デラックスさんも今月5日放送の情報番組「5時に夢中!」(TOKYO MX)で、「引きこもりの高齢化」が今後大きな社会問題になるのでは、と警鐘を鳴らしていました。
そもそも働かないことは法律に違反するのでしょうか。
■「憲法」で働くことはどう定義?
意外なことに、実は働くことは国民の憲法上の義務とされています。
憲法27条には、「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。」とあります。
したがって、働かないことは憲法の精神に反することになります。
ただし、勤労の義務の性質は、奴隷的拘束を禁じた憲法18条の存在から、国民の精神的道徳的義務であると考えられています。「精神的道徳的義務」とは要するに努力義務ということです。
「努力義務なら結局義務はないのでは?」と思う方もいるかもしれませんが、法律上は、努力義務であっても、結果まで要求されないだけで、それに向けて行動することは必要とされています。
つまり、勤労に向けて努力する義務を怠れば、憲法に反することに変わりはありません。その結果としてどうなるかというと、働けるのに働かない場合、生活保護や失業給付をはじめとする社会給付が与えられないという不利益を被ることになります。
実際、生活保護の受給審査では、働ける能力があるかどうか、という点が大きく考慮されます。
憲法が生存権を保障していることからすれば、収入がない人には無条件で生活保護を与えないといけないようにも思えますが、憲法が他方で勤労の義務をも規定しているために、生活保護は働く能力がない場合に限定しても問題ないわけです。
■「軽犯罪法」違反になる可能性も
以前別の記事「法律の雑学 軽犯罪法の奇妙な内容」でもご紹介したとおり、「生計の途がないのに、働く能力がありながら就業する意思を有さず、一定の住居をもたずにうろつく行為」は軽犯罪法違反であり、科料(1万円未満の罰金)または拘留(30日未満の拘置)に処せられます。
したがって、働けるのに働かないでぷらぷらしていると、「犯罪」が成立します。
■「詐欺罪」が成立するケースも…
先ほど書いたように生活保護は、働きたくても働けないことが審査要件とされています。
したがって、本当は働く能力があるのに、働く能力がないと偽装して生活保護を申請し、支給を受けた場合、国に対する詐欺罪が成立します。新聞などでも生活保護の不正支給が発覚して受給者に返還請求している事例が報じられることがよくあります。
*この記事は2014年5月に掲載されたものを再編集しています。
*著者:弁護士 星野宏明(星野法律事務所。不貞による慰謝料請求、外国人の離婚事件、国際案件、中国法務、中小企業の法律相談、ペット訴訟等が専門。)
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