家事の分担やお金の使い方など、一緒に生活するにあたり何かしらのルールを夫婦間で設けている家庭がほとんどかと思います。ルールが破られることなく円満に生活を送ることができれば何の問題もないのでしょうが、長年一緒に過ごしている以上、うっかりしていたり忘れてしまってルールを破ってしまうこともあるでしょう。
ルールを破らないように、抑止力を持たせるために「浮気をしたら100万円を払ってね」といったルールを設けているご家庭もあるようです。
この「浮気をしたら100万円」というルールですが、もしも一方が浮気をした場合は支払う必要があるのでしょうか? 解説していきたいと思います。
■「婚姻契約」の効力について
民法は、夫婦間の契約は、婚姻中、いつでも取り消すことができる、と定めています。他人間で交わした通常の契約には、このような定めはありません。つまり、夫婦間の契約の拘束力は、他の契約に比べて弱いものということができます。
しかし、だからといって、契約に効力がないというわけではありません。原則として、契約を交わせば、どちらかが取り消さない限りは、夫婦間の契約は原則として有効です。また、法律上は「婚姻中」いつでも取り消すことができる、とされていますが、判例には、離婚に至らなくても夫婦関係が破たんしてしまった後は、取消が認められないとしているものがあります。
破綻してしまえば、たとえ戸籍上は夫婦となっていても、実質的には他人同士と考えて、契約に対する拘束力も同様に考える趣旨といえます。
■「浮気したら100万円」ルールは有効か?
「浮気したら100万円支払う」というルールは、社会道徳に反しているような内容ではありません。ペナルティの「100万円」も特に法外な金額とはいえないでしょう。
このように「浮気をしたら」という条件が成就することによって契約の効力が発生する契約は、「停止条件付契約」といわれるもので、一応は、有効と考えられます。
ただ、「浮気」という言葉は抽象的なもので、どこまでの意味を含むのかについては、いざというときに夫婦間で争いとなる可能性もあります。例えば「性交渉をしたら」「キスをしたら」など、ある程度具体的に内容を詰めておく必要があるでしょう(但し、内容を詰める段階で夫婦間に軋轢が生じる可能性も否定できません)。
■ルールを定めることの懸念
浮気・不貞の中には、いわゆる火遊び程度の軽いものから、「家族を捨てた」ともいえる悪質なもの(長期間に及ぶ、生活費を入れない、婚外子が生まれる)まであります。
不貞による離婚については、その内容によって、高額の慰謝料を請求できる場合も少なくありません。しかし、このような契約を結んでしまうと、どんなに悪質な事案でも、100万円しか受け取ることができない可能性も否定できません。
個人的には、このようなルールを定めるのであれば、(1)婚姻契約で定める「100万円」が慰謝料とは異なるペナルティの意味を有するもので、浮気された方は別途慰謝料を請求できる、あるいは、(2)最低100万円を支払う、などと、場合によっては、もっと高額の請求をしうる余地を残しておくべきだろうと考えます。
ただ、結婚しようという時点で、このような約束を求めると、かえって相手からの信頼を損なう場合もあり得ます。いずれにせよ、安易なルール作りは、かえって将来的な責任追及の機会を失う可能性もあることに、ご注意いただきたいと思います。
*この記事は2015年2月に公開されたものを再編集したものです。
*著者:弁護士 寺林智栄(ともえ法律事務所。法テラス、琥珀法律事務所を経て、2014年10月22日、ともえ法律事務所を開業。安心できる日常生活を守るお手伝いをすべく、頑張ります。)
【画像】
*わたなべ りょう / PIXTA(ピクスタ)
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