普段から電車通勤をしている会社員の男性にとって「痴漢冤罪」というのは決して他人事とは考えられない、という方は多いのではないでしょうか。もし自分が痴漢を疑われてしまった場合、どう対策すべきなのかというのは男性なら一度は考えたことがあるトピックだと思います。
ただ、今回ご紹介する事件は少し特殊です。痴漢容疑で逮捕された容疑者男性が「実はスリをする目的で女性に近づいていて、スリ行為の途中でたまたま身体に触れてしまったのだ」と大阪地裁で主張し、痴漢行為についてはなんと11月15日に無罪判決が言い渡されることになりました。
そこで今回の記事では、この事件の概要から、男性が痴漢を疑われないようにするノウハウまでを、民事法務に詳しい弁護士法人エースの竹内省吾弁護士にお話を伺いました。
*取材協力弁護士:竹内省吾(弁護士法人エース。 交通事故分野のパイオニア。民事刑事問わず無料相談 メール受付対応。おもな著作に「交通事故裁判和解例集」(第一法規)などがある。)
■なぜ「スリ行為未遂」は無罪に?
まず、今回の事案ではなぜ被告男性は無罪になったのでしょうか。
「訴えられた事実そのものは痴漢行為であったのですが、実際の裁判において、被告人は、スリ(窃盗)のつもりだったと、痴漢行為に故意があった事を否認したところ、裁判所がこれを認め、痴漢行為には故意がなかったとされたため、訴えの事実となっている犯罪行為については、無罪となりました。
痴漢と窃盗は、その罪の質が全く異なり、どちらかがどちらかの故意を含むという明確な相関性がないため、訴えの事実に窃盗が入っていない以上、『痴漢ではなく窃盗の故意があった』と認定する場合には、無罪とせざるを得ません。」(竹内弁護士)
つまり、痴漢として被害届を出されて裁判に持ち込まれたものの、被告側は「痴漢ではなくスリ目的だった」と主張し、裁判官にこの主張が認められたため、痴漢に関しては無罪となったのですね。確かに痴漢とスリでは該当する法律も全く異なりますからね。
■もし痴漢で捕まっても「スリ目的」だったと主張すれば無罪に?
では、もし仮に痴漢目的の人が今回の事案を参考にして痴漢をして捕まったとしても、「実はスリ未遂だったんだ!」と主張すれば、無罪になる可能性はあるのでしょうか。
「まったく同じ事案ではあり得るでしょうが、今回は、痴漢されたという被害者の女性の供述の信用性が減殺された点が、検察官側の痴漢行為の態様の立証を大きく妨げたと思います。何でもこの主張をすれば通るというものではないです。」(竹内弁護士)
なるほど。痴漢を疑われた時の言い訳として「スリ未遂だったんだ」というのはあまり言わない方がいいのかもしれませんね。
■痴漢冤罪から身を守るための予防策は?
最後に、男性が痴漢冤罪に巻き込まれないためのアドバイスをお願いします。
「両手を上げておく、女性の近くに行かない、というのはよく言われる話なので、実践している方も多いと思います。そもそも満員電車を避けられれば一番良いのでしょうが、難しいかもしれませんね。
また、スマホ等で、メールやラインの送信記録があれば、例えば、『両手でずっと継続して触られていた』という被害者の主張に対し、反論の証拠となるかもしれません。また、痴漢に限らないのですが、いざという時に連絡する弁護士を決めておくといいと思います。」(竹内弁護士)
満員電車、特に痴漢の多い路線で通勤している会社員の男性は竹内弁護士のようにいざという時に信頼できる弁護士との人脈を持っておいた方が、いざという時に安心かもしれませんね。
*取材協力弁護士:竹内省吾(弁護士法人エース。企業法務・交通事故・不倫問題・残業代請求をはじめ、多岐分野に対応。弁護士とパラリーガルの緊密な連携により最短ルートで最善の解決へ。)
*取材・文:ライター 松永大輝(個人事務所Ad Libitum代表。早稲田大学教育学部卒。在学中に社労士試験に合格し、大手社労士法人に新卒入社。上場企業からベンチャー企業まで約10社ほどの顧問先を担当。その後、IT系のベンチャー企業にて、採用・労務など人事業務全般を担当。並行して、大手通信教育学校の社労士講座講師として講義サポートやテキスト執筆・校正などにも従事。現在は保有資格(社会保険労務士、AFP、産業カウンセラー)を活かしフリーランスの人事として複数の企業様のサポートをする傍ら、講師、Webライターなど幅広く活動中。
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