■現行のストーカー規制法の問題点をどう改正?
そして今般、小金井市における上記のような事件の発生によって、現行のストーカー規制法では「SNSを利用したメッセージ送信」への対応が困難であること、また、その問題性が改めて明らかになったことから、議員立法によりストーカー規制法の改正案が国会に提出され、今月18日、参議院本会議において全会一致で可決され、衆議院に送付されました。
改正案では、以下のように電子メール以外の電子的手段による行為も規制対象とされています。
ストーカー行為等の規制等に関する法律の一部を改正する法律案より
第1条
1 (略)
2 前項第五号の「電子メールの送信等」とは、次の各号のいずれかに掲げる行為 (電話をかけること及びファクシミリ装置を用いて送信することを除く。) をいう。
一 電子メールその他のその受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信(略)の送信を行うこと。
二 前号に掲げるもののほか、特定の個人がその入力する情報を電気通信を利用して第三者に閲覧させることに付随して、その第三者が当該個人に対し情報を伝達することができる機能が提供されるものの当該機能を利用する行為をすること。
例えば、「一」号はLINEやTwitterのダイレクトメッセージ等が該当し、「二」号はブログのコメント欄等が該当することになります。
この改正によって、電子メール以外の方法による行為についても規制対象となり、小金井市で起きた事件のような場合でも警察による対応が可能となるため、つきまといの被害に悩む人にとっては心強いといえるでしょう。
■刑罰法規は劇薬!言論の自由を奪わない運用になるのか?
ただし、ストーカ規制法に限らず、刑罰法規というのは一種の「劇薬」ですから、適切な運用がなされないと市民の行動・行為を必要以上に制限してしまうことにもなります。
今回の改正に即して言えば、ストーカー規制法の対象となるのは「拒まれたにもかかわらず、連続して」電子メールの送信等を行った場合ですが、「連続して」という文言をそのまま機械的に解釈・適用すれば、例えば、「もう書かないでください」と言われた後に、ブログのコメント欄に2回書込みをすれば規制対象となります(もちろん、前提として「特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的」などの要件を満たしている必要がありますが)。
もとより、事件の発生を未然に防ぐことが最優先であるのは論をまちませんが、他方で、法の適切な運用にも留意する必要があるのではないかと思います。
*著者:弁護士 櫻町直樹(パロス法律事務所。弁護士として仕事をしていく上でのモットーとしているのは、英国の経済学者アルフレッド・マーシャルが語った、「冷静な思考力(頭脳)を持ち、しかし温かい心を兼ね備えて(cool heads but warm hearts)」です。ブログ「ネットイージス.com」)
【参考】
女性アイドル刺傷、容疑者「プレゼント返され憤慨した」(朝日新聞H28.5.22付記事など)
【元アイドル刺傷】ストーカー規制法はSNS対象外、「警察は対策怠った」と紀藤正樹弁護士(ハフィントンポストH28.5.23付記事など)
「世界的にSNS上のつきまといもストーカー」 だがストーカー規制法では「SNS」は対象外…(産経ニュースH28.5.25付記事)
ストーカー規制法改正案が成立の見通し TwitterなどSNS、ブログも対象に(ハフィントンポストH28.11.18付記事など)
【画像】イメージです
*naka / PIXTA(ピクスタ)
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