■「大企業に対する罰金」の効果は疑問
もっとも、上場しているような大企業に対し、30万とか50万円程度の罰金を課したところで、実際には、違法行為を行った大企業の懐は少しも影響を受けません。もちろん、罰金を課されることは、違法行為をしていたことを裁判所が明確に認定したという意味はありますが、現実問題としては、それ自体の制裁としての効果はあまり大きくありません。
そもそも、違法残業や残業代不払いによって、企業は労働者の犠牲のもとに多大な収益を得ているわけですから、違法行為の程度によっては罰金の法定刑自体を引き上げなければ、現状では実効性に欠けるという問題があります。
■罰金に代わる「社会的制裁」の効果は?
近年、よく提案される案として、罰金と併せて、違法残業や違法な残業代不払いを行った企業名を公表するという制裁を規定すべきであることがいわれています。
大企業に影響があるような罰金額を定めるのが難しいのであれば、違反行為を継続して是正しない企業に対しては、罰金と併せて、企業名を公表することにより、社会的な制裁を予定し、違法行為の抑止につなげようということです。
一般消費者向けの企業であれば、当然、企業イメージや商品ブランドに傷がつきますので、大きな抑止力として期待できます。
また、一般消費者を相手としない職種であっても、悪質な労働環境であることを宣言するに等しい企業名公表が行われれば、取引先や少なくとも人材確保の面では悪影響があり、違法行為の歯止めとして、実効性が期待できます。
公表の制裁を発動する運用基準はなかなか難しいところもありますが、違法残業が一向に根絶されない状況では、罰金刑に加え、別の抑止力も導入を検討せざるを得ないのではないでしょうか。
*著者:弁護士 星野宏明(星野法律事務所。不貞による慰謝料請求、外国人の離婚事件、国際案件、中国法務、中小企業の法律相談、ペット訴訟等が専門。)
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*ABC / PIXTA(ピクスタ)
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