月末で会社から給与が支給されたビジネスパーソンの方も多いと思います。改めて給与明細の項目を確認してみた場合、すべての意味合いは把握しているでしょうか? 実は、会社独自のルールで項目内容が設定されていることも多くあり、実際には法律上問題があることも少なくありません。
そのひとつが「天引き」です。今回は、会社勤めをしているほとんどの人が経験しているこの「天引き」のルールについて解説していきたいと思います。
■法律上、天引きできる場合は限定されている
給与には「全額払いの原則」があり、原則として天引きは認められないと定められています。
ただ、法律上、例外的に所得税の源泉徴収や社会保険料については天引きすることが認められています。また、書面によって「労使協定」(労使の合意で、労働基準法などの労働関連法規の所定事項について適用除外を宣言するもの)が定められている場合には、これに基づいて社宅料や親睦会費などを天引きすることは認められています。
しかし、労使協定で定めればどんな建前の費用でも天引きできるというわけではありません。
労働者の福利厚生に役立つものでなければ、労使協定によって天引きすることはできないのです。社宅料や親睦会費などは、福利厚生に役立つと考えられるため、労使協定による天引きが認められているのです。
■問題があるのは賠償金を天引きするケース
例えば、よく問題になるのが、社員が会社に損害を与えた場合、その賠償金を会社が給与から天引きするようなケースです。判例で天引き(相殺)を認めなかった例もあり、原則として「全額払いの原則」に違反すると考えられています。
ただ、予め、労働者が自由な意思に基づいて同意していれば認められると考えられています。
会社によっては、業務上必要な費用であるにもかかわらず、会社の負担を免れるために給与から天引きしているケースもあるようです。自分の給与から不審な天引きがないかどうか、給与明細を再確認してみると良いかもしれません。
*この記事は2015年5月に掲載されたものを再編集しています。
*著者:弁護士 寺林智栄(ともえ法律事務所。法テラス、琥珀法律事務所を経て、2014年10月22日、ともえ法律事務所を開業。安心できる日常生活を守るお手伝いをすべく、頑張ります。)
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